「滝はレギュラーから外せ!」

仕方ない事だと割り切っている自分と、何かに震える心があった。





夏の日、残像






か り か り か り か り

「此処は、次の試験にだすからな」



ざ わ ざ わ ざ わ ざ わ

「えー?!」



み ん み ん み ん み ん

俯いたのはいつだったっけ?そうだ、今から三十分前、チャイムが鳴った時だ・・・。
あと二十分で授業が終わるよ?
ねぇ、終わるんだよ、授業。
自分に言っても、動けない。


昨日の事が、頭から離れない。
監督の言葉が、脳裏から外れない。
あいつらの顔が、目に焼きついてる。

崩れ落ちた俺の音が、今だって流れてる。





み ん み ん み ん み ん



ざ わ ざ わ ざ わ ざ わ



こんなに。
こんなに騒がしい夏の音が、この教室の音が。



かち かち か ち か ち か ち

全て、時計の音にかき消される。
騒がしいBGMが、たった一つの音に侵略される。
カウントダウン@後十分。



騒がしい教室、騒がしい夏の音。
だけど俺を支配する時計の音。
じくじくと刺さる、真裏からの視線。










ば た ば た ば た ・ ・ ・・



俺の横を走りぬけた、一つの足音。
とてもおおきな、その音。

その少し後、神経質そうな足音。

その二つとは全く違う、ゆっくりと近づいてくる足音二つ。
俺の前で止まった。

「堪忍な?」
「もどってこねぇの?」

うんともいいえとも言わずに崩れたまま。

遠ざかる足音。



ぱた ぱた ぱ た・・・

そして近寄る足音。

「俺、滝は此処に居てくれるだけで嬉しいよ?」
子供のように擦り寄ってきた慈郎が、ことのほか、暑いと不快に思わせなかった。



不意に涼しいと想った。
上を見て少し驚く。

「似合わないね、その、白いレースの日傘・・・」

「ウス。跡部さんが良いと言ったので。」

「そう、ありがとう」



泣けばよかったんだと想う。
遠目に見えた日吉が、射殺すように俺を見て、すぐに目を伏せた。
その顔は、今にも泣き出しそうだと想った。










俺の席は、宍戸の前。
宍戸の席は、俺の後。

俺達は同じクラスで、其れは卒業するまで変わらない。
だけど、俺の本性を、宍戸は知らない。
宍戸はとてもまっすぐなのだ。
その真っ直ぐ故に、あいつは悩む。
俺から見たら、其れは本のページの端が少し折れた程度の事も、とても重要な過ちに見えるのだ。

宍戸は、俺を負かした事に後悔は無い。それでも、負い目を感じるのだ。その真っ直ぐ故に。



俺が死んだりしないように、後ろから見張るように宍戸は監視する。

そして俺は、そんなにやわではない。










「お前の二週間を俺に貸してくれ」



その場面を目撃したのは、恐ろしいほどの偶然。

あのプライドの塊みたいだった宍戸が頭を下げていた。
「宍戸・・・?鳳・・・?」

何も見ないふりをして、俺はその場を立ち去った。
何も聴こえないふりをして、俺はその場を走り去った。



その日から、こっそりのぞいていた練習風景は、とても正気の沙汰とは思えないような光景だった。

「宍戸は、戻ってくるつもりみてぇだな」
「良いんじゃないの?戻れるかはしらないけど。」
「嫉妬してるみてぇな面だな」
「宍戸が、鳳を頼った理由なんて、別に、如何でもいいよ・・・俺に足りないものなんて、知りたくないよ」
「あいつがあんなに練習したって、俺達の誰が、その宍戸と戦ってやるんだろうな。どっちに転んでも、嫌な役だろうよ」
「・・・早く帰りなよ跡部。お前の事を文句も言わずに待ってる樺地が気の毒だ。」

薄い笑いを貼り付けて、恐ろしいほど綺麗に笑っていた跡部がため息を付く。

「言われなくても分かってるよ。じゃあな、滝。俺は先に帰るぜ」



「お前に、俺の苦しさなんてわからない。お前はいつだって、その手に全てを収めているんだ」

その代償に重責を。



悔しいとか、悲しいとか。
どうして宍戸は俺を頼ってくれなかったんだろうとか。
どうしてあいつは鳳を選んだんだろうとか。
その理由、全てを知っている事の苦しさと、その理由、全ての対処法が分からない事のもどかしさが。



み ん み ん み ん み ん





ホームルームが終わる。今日は部活が無い。



俺達の誰が、その宍戸と戦ってやるんだろうな。どっちに転んでも、嫌な役だろうよ



無限ループ。
跡部は知ってる。俺の感情も、宍戸の想いも。
いつもなら、跡部の言葉に振り回される事なんて無い。
それでも、人より優れた理解力が、俺をいつも以上に苦しめる。



「ねぇ、宍戸。明日の試合、俺が相手をしてあげるよ。試させてあげる。お前の努力を、俺にぶつけさせてあげるよ。」

宍戸の。歓喜と驚愕の入り混じった顔が、とても苦しかった。
見続けるには、俺にちらつく痛みが邪魔で、すぐに前を向いて席を立って帰った。

「滝?!」

宍戸の声は、聴こえないふりをした。










無言のまま過ごした昨日。

ぎすぎすした空気の。

打ち合う事も儘ならず、圧倒されて終わった試合。










「俺はそんなに、器用じゃない・・・」
ぽつりと漏らした言葉は、授業中の喧騒にかき消された。

そういえば、テストに出すんだっけ?ここら辺。まぁいいや。別に、それでも宍戸よりは圧倒的に成績良いしなぁ

少しずつ、周りの騒がしさが戻ってくる。
その音は、さっきと何も変わっていないはずのその音。

俺は現実に戻り始めてるらしい。
時計の音が喧騒に消されて聴こえない。

後ろから時々がたんと音がする。
ああ、眠いんだろうな、宍戸。



ふふ



・・・なんだろう、とても自然に笑みが零れた。

何だ、常に気を張っていた昨日までより、ずっと善い状態じゃないか。



「俺、滝は此処に居てくれるだけで嬉しいよ?」



俺は変わらない。ならば、俺らしいまま傍に居られる方法を取ればいい。其れを、誰かに文句は言わせない。





「ねぇ、宍戸、」

今日から、日傘を差して、暑くなったら涼しいところに避難する、そんなマネージャー業に専念するのも、悪くないと想ってるんだよ。
後ろで俺を見張りながら、眠りの呪いのような声とも戦ってる、イメチェンにも程があるほど短くなった髪の男に、教えてやろうかなぁと、想った。










もう、すぐ傍まで、暑苦しいと想う夏が、そこに迫っている。



そういえば、いつの間にか、鬱陶しいとすら想っていた梅雨が、明ける。


















































20040709