壊れたのは、瓦礫。





木造平屋建ての家に住んでたのは遠く昔。十年一昔というのだから、十二年前を昔と呼んでも構わないと想う。
(って、滝が言ってた。)

今の家は、4LDK五十六坪二階建ての家。
へーベルハウスは三十年後も資産価値があるそうだ。すげぇな親父。よくがんばったんじゃん?
ローンとか、詳しい事はしらないけど、多分あと二十年以上は地獄なのかもしれない。
わりぃ、ずっと私立で。出来ればこのままあがるつもりなんだけど、もしかしなくても、家計の手助けはすべきだよな。うん。交通費くらいは自分で稼ぐよ。あと、学費も1/3くらいはがんばってみる。や、無理かも。

そんな俺んちの裏事情を知るわけ無いのがうちの学校の奴らだ。
別に俺だって中流家庭なんだけどさ、うちの学校って、基本がハイエナ・・・ハイエナ・・・?(正しくはハイソだって滝に怒られた・・・)な奴らばっかりなんだよな。別に善いだけど。
何だよ、社長子息令嬢って?俺んち小学校の先生だぜ?弁護士やら医者やら。嗚呼そうですか。

嗚呼そうですか!

や、別に、ひがんでるわけじゃない。ひがんでもしょうがねぇしな。
親父も好きで先生やってんだし、別に文句は無い。
しかも、前ふりが長過ぎた。



そう。俺の家は、そうそう無くならない。
だけど、長太郎は、眼の前で失ったのだ。大好きな形を、壊されてしまった。










++++++++++

「ししどさん」

その日長太郎は、銀の髪をふわふわさせながら、ぽたぽたぽたぽた大粒の涙を零しながら俺の家へ来た。



「長太郎?日本に戻ってたのか?どうした?とりあえず入れ。」

夏休みの始まる少し前に、イギリスに住んでるおばあちゃんが亡くなったと、長太郎一家はイギリスへと戻っていた。



俺の部屋に招きいれても、いつまで経っても泣き止まない長太郎。
子供みたいに(や、実際、まだ子供で通る歳なんだけど)、べそべそと泣き続けていた。

「長太郎、泣きたいなら好きなだけ泣け。でも、何も言わないんなら、俺はお前の涙の理由なんてわかねぇんだからほっとくぞ。」

突き放すわけじゃないけど、わかんねぇもんはわかんねぇ。
ばあちゃんが居なくなって寂しいのかもしれないし、もっとくだらない理由で泣いてるのかもしれない。
有力な説を自分で考えるよりは、はなから本人が真実を語った方が間違いが無くて良いと想う。





「おばあちゃんが・・・」

ようやくしゃくりをあげながらも眼の前のでかい犬は、あまりの暑さでへばっていて、気の毒だからと夏の間は室内犬にしてもらえた本物のうちの犬をひざにおきながらポツリポツリと話始めた。

えっと、長太郎の話をそのまま書くと、あいつ単語を時間をかけて話したから(良く俺が堪えたられたと褒めてくれ!)、簡単に一時間をかかるから要約する。
そうすると、話はコウだ。










「ばあちゃんの住んでた家、取り壊したのか。お前たちがそれを見守りながら」

イギリスに住んでいた長太郎のばあちゃんには、実は面識がある。
それに、その家も俺は知っていた。

あそこは、レンガ造りの、大きいとは言わないが、それでも、とても懐かしい感じのする優しい家だった。



「そっか、もう、あの家はなくなっちまったんだ・・・」

人一倍ばあちゃんに懐いていた長太郎にはそうとう辛い事だったろう。
あの優しいレンガ造りの家が、眼の前で瓦礫へと壊されていく。
思い出を静かに壊されていった長太郎は、それでも家族の前で其れを我慢して堪えていたんだろう。

その家は、天国にいるばあちゃんへと送ったんだ。

「一人で帰ってきたのか?」
「はい。俺、明日 から、学校ある し、みんなより早く、帰って、きて、でも 家、帰りたくなくて、ししどさん、ちに。」

「わかったわかった、あしたはこっから学校通って良いから。どうせクリーニングに出しっぱなしだろう?制服。後で取りに行こう、な?」
「はい・・・。」



「よく我慢したな。ばあちゃんこれで、天国で家が無いって困らなくて済んだな。えらかったな、長太郎」
「はい」
「壊す時、おじさんとかおばさんを困らせないように、ずっと泣けなかったんだろう、お前。えらいえらい。」

「大丈夫だよ、毀れちまったのは、レンガで造られたばあちゃんの家だけだ。お前に残ってんだろう?愛された記憶も、愛した記憶も。そうやってお前がずっと持ってれば良い。だから今は、寂しいとか、全部吐き出して泣け。」

ちっちゃいガキをあやす様に背中やら頭やらぽてぽて叩きながら、ずっと泣き続けてる後輩を甘やかす。





ずっとずっと長い事泣き続けて、ずずずと鼻をすする音が聞こえた。

でこをつき合わせて長太郎の顔を間近に見て想った。

「長太郎、顔ぐちゃぐちゃ〜!」

長太郎のひざの上に前足を乗せていたタロウも、尻尾を振っていた。

「ししどさんもタロウも、酷いっす・・・!」

長太郎が、やっと、笑った。




















なぁ長太郎。愛し愛された記憶は、お前が死ぬまで毀れない。


















































20040920