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boy meets boy 「だって侑士は、本当は自分によく似たヤツなんて、嫌いだろう?」 忍足の涙を拭いながら岳人が確認するように訊く。 それは最早、断定。 「何処でばれてしまったんかな・・・」 愛おしいものを慈しむ様な表情で、ただポツリと呟いた忍足の言葉に、ただ岳人は微笑むだけだった。 勝気な笑顔で、忍足の涙を拭くだけだった。 忍足も、ただ、されるままに動かなかった。 ++++++++++ ++++++++++ それこそ、ちっちぇえころから、スポーツであれば何でも好きだった。 とりわけ、飛んで跳ねてても怒られないようなものは何だって楽しかった。 そのせいか、幼稚園の時、公立に向かないタイプの子だと担任から太鼓判を押されたの覚えていた。 あまりにも強い俺のその個性は、きっとここいらの公立の小学校では辛い思いをしてしまうんじゃないかと、それはそれは苦々しい顔をしながら、俺を迎えに来た親に通達した担任の顔を、今でも覚えている。 本当は内容なんて覚えちゃ居なかったけど、その、俺の事をあまり好いては居なかった担任の、その無性に腹立たしい顔だけを今でも覚えていた。 俺の親は、いつだって俺の個性を大切にしてくれた。 だから、一生懸命学校も探してくれた。 普通は其れこそ年端も行かないうちから英才教育とか施されてするような小学校の受験。俺にはその準備期間があまり残されていなかった。 幼稚園時代は周りの奴らに比べれば頭の出来は悪くなかったから、なんとか滑り込んだ先が今も通ってる氷帝学園だった。 でも、なんで俺に合格を出してくれたのかは、未だに不明。というより、慈郎と宍戸も、なんで合格したのかわかんねぇ。 あいつらも、俺と同じくらい成績は芳しくねぇ方だ。 噂では、跡部の恩恵とかなんとか。まぁ、入っちまえばこっちのもんだから、そこら辺は知らないし、どうでもいい。 必要なのは、度胸と運と、それなりの努力だと思う。 小学校に入って早々、俺は宍戸と仲良くなった。 クラスも一緒で、何かと趣味や言動が似通ってたのが楽しかった。 気がつけばクラスのお祭り騒ぎを担当。 慈郎と滝と跡部は隣のクラスだった。 慈郎と跡部と宍戸は、更に昔から幼馴染だったらしかった。 おかげで、人に好かれる割に、結構人の好き嫌いが激しい慈郎と、その慈郎にめろめろに懐かれた滝と、その面倒に追われる跡部とも仲良くなった。 仲良くなって色んな話をしてるうちに、皆テニスをしていることが分かった。俺も飛んで跳ねても怒られないと聞いて、早速始める事にした。 どうせなら、仲間であって、ライバルであるヤツが居た方が、何かと面白い。 おかげで、気がつけば予想外に楽しくて驚くほどはまっていた。 六年同じ学校に通ってたんだから、跡部と同じクラスになったこともあるし、滝となったこともある。慈郎と一緒になった時は、二人で悪戯ばっかりした。 途中で樺地って云うばかでかい後輩も出来て、賑やかに楽しい小学校ライフだった。 俺は親にも友達にも、学校にも恵まれてのほほんと思いつくまま生きてきた。 あんとき、俺の担任が公立にむかねぇって云ってくれなきゃ、今俺はここまで充実したものは得られなかったと思うと、だいっきらいなあの担任も、ちっとは許せる。と、思う(正直どうでもいいけどな) ++++++++++ ++++++++++ 大学病院に在籍する父親に、転勤とゆー言葉はあらんかった。 それなりにしっかりと育てられて、これといって難儀な事も無く過ごしてきた。 それなりの有名どころの小学校に入り、それなりに生きていく知恵を学んでった。 頭の出来がええんなら、それだけ見なくてもいい世界の構成も見えてくる。 それかて、別にその事になんとも思っては居らんかった。 そへん、別に、ありがたいほど知能の発達の早かった自分が、処世術に長けていっただけやった。 それだけの事に、目くじら立てても仕方ないと思って生きとった。 ただ。 ただ、人と巧いあわせて、これといった問題も起こさず、当たり障り無いように生きていく、自分のその父親を好きにはなれひんかった。 俺は、そないなりたないと、そう思ってた。 いつしかその感情は、耐え切れひんほどの嫌悪となって表に現われた。 血の繋がった実の父親を、本気で憎んでしまう前に、出来ればどっか遠くに身を置いておきたかった。 来年には中学へあがらんと為らん歳になり、父親と距離取らせて欲しいと母親に頭を下げれば、ならばと氷帝を勧められた。 そこは東京にあるけれど、知り合いの経営してる学校やさかいに、安心は出来る。 それが母親の言い分やった。 学歴として残る学校として、そこならば十分だと父親も了承をした。 それが、俺が東京へ来れた理由だ。 東京へ着いたその日、少し呼吸が楽になったと思った。 このまま、父親への嫌悪を、忘れてしまおうと思った。 距離を置いて、いつしかその感情は無くなってしまえばいいと思った。 ++++++++++ ++++++++++ 「しのびあ、し・・・?」 「おしたりや。」 出会いは上々。 インパクトだけで行けばすっげぇ印象的。 感情面は気にしない方向。 「そう読むのかよ!まぁ気にすんな!」 「や、むっちゃ気になるし。自分気ぃつけや。」 初めて会ったのはいつだったか、少なくても、部活に入った頃には顔見知りではあった。 ああそうだ、たしか、跡部が紹介したんだ。 「あとべー!辞書もってたら貸して!」 そう駆け込んだ跡部の教室。 宍戸は同じクラスだし、滝も慈郎も持ってなかった。 「あーん?今日は俺のところつかわねぇし、持って帰っちまったから今はねぇ。」 そっけなく跡部にそう宣告されて、ちょっと途方にくれてたとき、跡部後ろに座ってた丸眼鏡が話しかけてきた。 「辞書やったら、持っとるよ?」 「まじで?!かして!恩に着る!えっと、」 「ああ、岳人、こいつテニスやってんだと。忍足っつうんだ」 跡部がそう紹介してくれて、やっと名前がわかった。 「えっと、おしたり、あんがとな!後で返しに来る!」 大慌てで教室に帰って、既に紹介された男の名前を忘れていた。 なんだったっけ、あの丸眼鏡・・・。まぁいっか、あとでこっそり跡部に聞こう。 聞こうと思ってても、忘れちまってたもんはしかたねぇ。辞書を返しに行った時も、あいつは席に居なくて、跡部に渡して其れで終わったのだ。 ああだから、そんなさぁ、仕方なくねぇ?いいじゃん、今仲良いんだからさ。 でもな、俺、あいつが跡部の紹介された時、一瞬不機嫌になったのだけ、ちゃんとずっと覚えてた。 ++++++++++ ++++++++++ 「あ、いつぞやは辞書貸してくれたやつだ!」 溜息だけ返しておいた。 「なんだよ、その嫌そうな顔!」 あまりにもきゃんきゃん吠えるので、なんとなく聞いてみた。 「自分さ、これ、何て読むか分かる?」 差し出した98点の、なんでこんなケアレスミスしたのかは分からない、しかもトップは自分の前に座っとる跡部だというテストの答案用紙。の名前の欄。 「しのびあ、し・・・?」 なんやのその、忍者の技みたいの。 「おしたりや。」 盛大に溜息をついておいた。 「てゆうか、お前、98点って何事だよ!俺なんか、俺なんか・・・宍戸よりはいいもんねぇ!」 と、なにやら違う方向に感情を持っていって、宍戸とやらと盛大な罵りあいを向日岳人はしていた。 てゆうかはこっちの台詞や。 なんやの?俺だけこいつの名前覚えてたっちゅうの? 俺、名前も忘れられててんの?なんやのそれ。 それなのに、それなのになぁ、なんで? なんでお前、そないな事言うの? 「だって侑士は、本当は自分によく似たヤツなんて、嫌いだろう?」 俺の名前も覚えてくれてなくて、あまつさえ覚えづらいからこれから侑士って呼ぶな、だからお前も岳人でいいよなんて言ってたお前が・・・。 「なんで、そんな事だけ気がついてしまうの、自分・・・」 「だってお前さ、お前がおじさんが嫌いなのって、まんま同属嫌悪ジャン。跡部のことも、理解してやるのは簡単だけど、本当は苦手なんだろう?」 ばれないように、いつかそんな感情知らないフリが出来るように、大人になるのを待っていたのに。 「だってお前、跡部が俺にお前を紹介した時、すっげぇ嫌そうな顔してた。」 如何してこいつは、その邪魔をするんやろう・・・ 「ずっとわかんなかったんだけどさ、お前、負の感情っていうの?そういうのとか、あと努力してるところとか、人に見せるのすっげぇきらいじゃん?なのに、あの時は嫌そうな顔してた。だから、お前と仲良くなってから、何となく分かった。」 なぁ、どうしてそんな、今更言うの? 俺が大人になるいつかまで、その事には触れないでくれればいいのに 触れないで欲しかった。 気付かないで欲しかった。 その一方で、我慢をしている自分が苦しくて仕方が無かった。 誰かに助けて欲しかった。 「だって侑士は、本当は自分によく似たヤツなんて、嫌いだろう?」 こぼれてしまった涙を拭いながら、岳人は重ねて聞いてきた。 俺はちゃんと知ってるんだと誇らしげに。 「何処でばれてしまったんかな・・・」 はらはらとこぼれ続ける、喜びと、苦しみをつづった涙を、拭いつつけながら、岳人は言うのだ。 「だから侑士、お前の無いものしか持って無い俺のこと、すっげぇ好きだろう?」 そう、全く違う性質だから、俺は確かに、お前に結局救われひきつけられてしまったのでしょう。 20041015 |