|
「・・・じ・・・・・・う・・・ 慈 郎・・・慈郎・・・?」 ああ、滝の声が遠くに響く。 「慈郎、何があったの?」 「・・・ん も・・無い・・・」 「・・・慈郎はうそつきだね。いいよ、じゃあ、このまま寝てて。部活、一緒にサボってあげる」 背中を緩く叩く手。規則的なリズム。其れは、計った様に心臓の鼓動速度。 滝のセーターにしがみ付くように、包まって眠る。 滝は、いい匂いがするからすき。 深く深く。眠りに落ちて。 起きてたって、俺に、王子様なんて、いつだって現れないんだから。 眠り姫
「おい、滝」 「あ、跡部。」 「慈郎は・・・やっぱりお前の所に居たか・・・」 「うん。何だろうね、今度は何があったんだろう?」 「さあな。また、誰かに傷つけられたんじゃないか?」 「言わないからね」 「言わないな」 「こんなに、丸くなって眠ってるのに、ばれないと想ってる」 「お前にだけだろう?慈郎がここまで分かりやすく甘えるのは」 優しく慈郎の髪を梳く跡部の手。 その手にはどれだけの愛しさと慈しみが籠められているのか。 「寂しい?ごめんね。本当は、お前か宍戸がこの役目だったんじゃないの?」 「いや。昔から慈郎は、こういうぎりぎりの物は俺達の前では見せなかった。」 「そう」 「ああ。ありがとうな」 (慈郎が弱さを見せれる場所になってくれて) 跡部の言外の言葉。慈しむと謂う言の葉。 そこには、ただ、慈郎への優しさしかない。だから、ありったけの優しさを籠めて、俺が跡部の頭を撫でる。 驚いたのは触れた一瞬だけで、後はただ、褒められた小さな少女のように、目を瞑って撫ぜられる感触を甘受してくれた。 「跡部はこんなに優しい。おれよりずっと、優しい」 「ありがとうよ。じゃあ、部活は慈郎が起きたら来い。部活が終わるまでに来なかったら迎えをよこす」 すいっと立って彼は出口に向う。 「何?樺地?」 「さあ。でも慈郎は、滝の次くらいにあいつを気に入ってるみたいだな。」 「色んなところにやきもちなんて焼かないでよ?本当は、皆お前が好きなんだから。」 「恥ずかしいヤツだな、おまえ。まぁ、真摯に聞いておく」 中から外へ漏れ出た吹奏楽部の演奏。 校舎の外周を走っている何処かの部活の声。 テニスボールの音。 どれも小さくて、其れは子守唄でしかない。 俺のセーターを握ったまま、依然包まって眼を瞑り続ける慈郎。する事は何も無い。分かってる事も何もない。 片手間にただずっと、背中を叩き続けるだけ。 「慈郎、慈郎。ねぇ、お前、こんなに皆に愛されてるのに、今度はどうしたの?皆お前を心配してるんだ」 ゆっくりとしたリズムで背中を叩きながら、多分、深い眠りに落ちてるんだろう慈郎に話しかけた。 外に溢れる子守唄のように。きっと、深層意識にぐらいは届いてるんじゃないかと想ってた。 「・・・好きだと、想ってた・・・」 「起きたの?慈郎」 「うん・・・。俺ね、好きだと想ってた。だから、一生懸命話した。けど、なんか、先輩、いつの間に現れたか知らない下級生と付き合ってた」 「先輩の事、好きだったの?」 「うん。」 「そう」 「好きだから、何とか頑張って仲良くなった。だけど、気が付けば、すっげぇ良いお友達に分類されてた。俺ね、それでもいいって想ってた。だけどさ、俺に、愚痴るの。彼氏がどうだこうだって、一杯話してくれるの。俺、すっげぇ苦しかった。だからね、俺、少しずつ離れてった。だけどね、そうしたら、離れていきそうな心、物でつろうとするの。だけど大切なお友達ってゆうの。ねぇ、滝、俺何を信じたらいいだろう?もう、わけわかんない・・・」 「・・・慈郎」 「一番に好きになってくんないなら、俺、要らないのに・・・。期待だけ、期待だけ俺にくれるの・・・」 「慈郎・・・」 「お前本当に、自分から寄って行った人にはあんまり縁が無いね」 「え?」 「跡部も宍戸も、危なっかしいお前についてくれたんだろう?」 「うん」 「俺も、そんな慈郎に声をかけた」 「うん」 「岳人は宍戸が紹介したし、忍足は岳人が紹介した。樺地は跡部が紹介したし、鳳と日吉は樺地が紹介した。」 「そうだったね」 「お前、そうやって得た奴らとは本当に強い縁で結ばれてるのにね」 「うん、じゃあどうして、自分から求めると、手に入らないのかなぁ・・・」 風に攫われて上手く聞き取れなった言葉。 何?と聞き返そうかと想う前に、足にじんわり濡れる感触。 「慈郎は、いつだってこんなに静かに涙を流すんだね。もっと、大きな声を出して、駄々をこねるように泣けたらいいのにね?」 ふわふわの髪を撫でる。涙に濡れた頬に触れて。また、背中を叩く。 なんて、なんて残酷な話だろう? この結末は、慈郎が自分で下さなければならない。 そしてその結果、手酷く傷付いた慈郎に、跡部たちはどれだけ傷付くのだろう? なんて、なんて身勝手で残酷な話だろう? 慈郎も、相手も、何と身勝手な。まだ子供の俺たちには、子供の恋愛だと怒ることだってできはしない。 諦められるほど大人じゃない。 駄々をこね続けられるほど子供でもない。 手に入らないかもしれない。 だって、全く信用なんてしてないんだ。 なのに、期待だけしている。 期待して。期待して。結局期待も裏切られて、手酷く傷付くのに。その度に、周り中が優しくしてくれる。 あ、俺はもしかして、甘やかして欲しいのかもしれない。 優しくして欲しいのかな 甘やかして欲しいのかな 一杯構って欲しいのかな だけど違う、きっと本当は、俺を認めて欲しかった。 ぎぃと音がして扉が開いた。 そういえばいつの間にか聞こえなくなったテニス部の音。 ああ、そうか、部活が終わったから、跡部が迎えをよこしたのかと思った。 「滝、此処に芥川が来てると跡部が」 「榊、監督・・・?」 「どうかしたのか?滝」 「い え・・・監督こそ、どうしたんですか・・・?」 「芥川を迎えに来た。」 「はぁ・・・?」 「芥川だって、私には大切な教え子だ。出来る事があるならしてやるさ。」 「はぁ・・・慈郎、だって、いってきな?」 「おいで、芥川。先生と、一緒に行こう」 小さな声でうんと答えて。 てててと監督の方へ小走りしてる慈郎がちょっと可愛らしかった。 でも、なんだかなぁ・・・ こうやってきっと、榊監督も慈郎と何かしらの縁を持つんだろうなぁと想う。 大体、慈郎って、自分から欲しがらなくても、基本的に周りが放って置かないタイプだし。 というか、跡部の人選に驚いた。 確かに、一番あやすのが上手いかもしれない。 けど、榊監督とは、また未知数なものに・・・。 ぽかぽかといまだ暖かい太腿の温度を感じながら、今一、こう、慈郎ってシリアスの似合わないタイプなんだなぁ・・・と、思った。 20041227 |