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其れすら喜んでしまう俺を、貴方は知らないまま、傍に置いておきたがる残酷な話。 Cruel story
「樺地、大丈夫か?」 「ああ、いつもの事だ」 そう言った視線の先には、この間見たのとは違う、俺達には無い可憐さや華奢さを持った、可愛らしい女子と、世界に祝福されたかのような美しい人が居た。 「また、変わったの?跡部さん」 「ああ、先週振られて、今週告白された」 ふわりふわり笑う女の子の隣で、優しく笑う人。 それはでも、どこか違和感のある景色。 誰に、何に、違和感が存在するのか、俺には全く分からなかった。 全く分からなかったけれど、一年前、酷く塞ぎこんでしまった樺地が、いつかそのうち、生きて行く事を放棄するのではないかと心配になるほどだったのを思い出した。 「なぁ、樺地はさ、」 「おい、樺地!」 「すまん鳳、呼ばれたから」 「ああ、じゃあ・・・」 当たり前の様に樺地を呼ぶあの人が、樺地にとって大事な人なら、俺は何も言う事なんて出来はしない。 塞ぎこんでしまっていた樺地をすくいあげたのは、結局は他ならぬ跡部さんその人だからだ。 大事だという気持ちは、何処へ繋がっていて、樺地の想いはどこへ昇華されたのか、俺はさっぱり分からなかった。 それでも跡部さんは一緒に居たがり、樺地も傍を離れたがらなかった。 「なぁ樺地、お前はさ、跡部さんの隣に誰かが居る事を、そうやって、見守り続けて生きていくの?傍に居るのがお前じゃなくても構わないの?なぁ、本当に大丈夫なのか?」 もう届かない後姿、遠ざかっていく二人を見ながら、俺はぽそりと呟いた。 ---------- 「樺地、帰るぞ」 「あのひとは?」 「家の方向が違うし、俺の荷物はお前が持つものだろう?」 「・・・」 「さぁ、帰るぞ」 置いていかれる女子に会釈をして、跡部さんの後を付いていった。 この人の左斜め後ろは俺の為にキープされている。それでもけして彼の隣を歩く事を赦されていない自分を、歯がゆくすら思った。 それでも、一生傍に居たいと俺は願った。 その願いは今でも雁字搦めに俺の内側を甘く蝕んでいるのだ。誰が何を言おうが、俺はそれを決めた。だからこれでいい。このままでいいと思った。 傍に居るのだ。そう決めたのだ。これ以上、何を望めば良い? 触れてしまえば、隣にたってしまえば、今の状態を壊してしまいはしないのだろうか? 俺の願いも全て、壊してしまわないだろうか? 一歩を踏み出さない理由をあれこれつけたまま、俺は結局、自分の願いを最優先させたのだ。 それでいいと、思っているのだ。 「おい、樺地」 「ウス」 「樺地、お前は俺に幻想を抱くなよ?」 「ウス」 何故こんな事を今更言うのかと思った。 ああそうだ、先週、こっぴどく振られた彼は、それでもなんともない顔をしていたではないか。 しかし、けして、深く傷が付いた顔ではなかった。 曰く、ダメージを受けるほどの愛は、結局芽生えきらなかったとか。 「樺地、お前は、お前だけは、ちゃんと傍で俺を見ていろ」 振り向きざまに一瞬見せた顔は、彼が滅多に外に出さない縋るような表情が映し出されていた。 ウスと答えれば、「それでいい」とまた俺に背を向け歩き始めた。 俺はいつまでも、貴方の傍に居たいです 伝えてしまえば、喜んでもらえたのだろうか? きっと、この人は、俺の気持ちになんて永遠に気が付かないままだろう。 俺はそれでも一向に構わないと思っている。 いつか、そう、遠く無い未来、傍を離れるのは、俺ではなくて、彼なのだと思う。 だからその前に、彼が手離したくないモノへなろうと決めている。 俺はいつだって、この人の隣に見知らぬ女性が居てもそ知らぬふりをして傍に付き従うのだ。 だって、貴方が時々、恐ろしいほどの笑顔を此方に見せてくれるのだから。 だって、貴方が時々、縋るように俺を見つめてくれるのだから その表情の意図なんて永遠に見えないまま。 なんて なんてこれは酷い話なのだろうか 20050612 |