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寂しいのかと問われて、答えに詰まった俺の気持ち。 僕の我慢
「なんや跡部、寂しそうな顔してまぁ」 窓の外をぼんやりと眺めていたら、忍足の声がした。 「何か用か、忍足。」 視線を忍足に移せば、「おぉこわ」と、ひょうきんともいえる声を出した。 「用があらんと声かけちゃあかん?そやね、生徒会長様は忙しくあらっしゃるから、いちいち一般生徒のどうでもええ話なんぞきいとられんもんね?」 皮肉を返してくる忍足は、立ち退く気はないらしく、平然と俺の傍まで歩いてくる。 「おやま、宍戸とワンコやん」 窓の外、俺の眺めている景色をさらっと覗いて、事実を口にした。 人の心に上手に土足で入り込むのは、こいつの嫌な特技だ。 普段は人に関心あるふりをして全くの無関心のくせに、落ち込んでる人間に発破をかける手腕に長けている。 捕まってしまったのは、隙を見せた自分のせいだと分かっていた。 「つまんねぇことだ。聞いたっておもしろくねぇぞ」 視線を窓の外でじゃれ付いてる宍戸と鳳から外すことなく呟く。 忍足はイエスもノーも答えなかったが、奴のたてた椅子を引く音を無言の肯定と受け取った。 - - - - - - - - - - 「あ と べ け い ご・・・?」 僕の前に座っていた金色の髪をふわふわさせた子が、僕の名前を読んだ。 君は、よく逆さまから文字が読めるんだねと律儀に返したら、そのまま後ろにころんと転がってきたあくたがわじろうはへらっと笑った。 そのまま抱きつかれて対応に困っていたら、「お前、そいつ困ってんじゃん!」と、長い髪を一つに束ねたししどりょうが来た。 「ん〜、だって、あとべけいご、いい匂いで、落ち着くC〜」と、うとうとしかかっていたあくたがわじろうは、ししどりょうに一瞥くれた後、また僕にしがみ付いてきた。 お前、大変だな。と、綺麗な髪なのに、顔は傷だらけのししどりょう(多分男・・・?)は、にかっと笑うとそれが当たり前の様に僕の隣に座った。 初対面の幼稚園児として、これは如何なものなんだろかという疑問は、何処へも出さなかった。 僕の肩書きや、背負うもの、纏うオーラ。それに物怖じしない同世代に遇った事は無かった。 だからそれまで、いつだって一人でいて、そしてそれを苦とも思っていなかった。 でも二人には、その全てがどうでもいい物であり、だからこそ物怖じする事もなく、僕の傍に居続けた。 そしていつか。 僕は、孤独という言葉を知り、ししどりょうとあくたがわじろうは、けして僕の傍を離れず、そしてまた、僕も二人の傍に居る事が多かった。 孤独を知る事と引き換えに、僕は、友達を知った。 それはとても、素敵なことだと思った。 幾つもの季節をともに過ごし、ともに泣き、笑い。 ファーストネームで呼ばれる事を極端に嫌う俺の呼び名に困った二人が、「跡部」と呼ぶようになるのも・僕と言う事をやめ、俺になったことも・全ては二人に出会ってから、二人のおかげで得たものなのだ。 一緒にはじめたテニスで、いつだって俺達に負けまいと一生懸命だった、その姿や視線、全て。 届かない空に手を伸ばすように我武者羅だった宍戸を、ずっと見ていたのだ。 いつでも一緒に居た友人が、俺達以外の背を目指し、俺達以外の前で満面の笑みを浮かべる日を、少なくても俺は、深く考えていなかった。 だからどうだ。 あいつが必死に手を伸ばした先には、俺では無い誰かがいるのだろうと、どこかで分かっていたはずなのに。 いざ、その時がきたら、何てざまだ。 宍戸の視線は俺を追う事をやめ、今は鳳とともに上へ上る事を考えている。 鳳が憎いわけではない。 それでも、俺を追っていた宍戸が居ないのだ。 - - - - - - - - - - さみしん? 忍足の声がした。 どういえばいいかわからず、返事に窮していた俺に救いは来た。 「・・・しつれい、します・・・」 「樺地・・・」 「遅くなってすみません、迎えにきました」 ぺこりと忍足に対して会釈をし、樺地はそのまま俺の傍までやってくると、当たり前のように俺の鞄を持ち上げ、俺に手を差し出した。 その手を取って立ち上がった俺が、少し安堵の表情を浮かべた事を、樺地も忍足も見過ごしたりはしていないだろう。 「じゃあな、忍足。俺は帰る」 だけど俺は、忍足の質問には答えること無いまま、立ち去った。 取り残された跡部のクラスで、 「跡部はわがままさんやからねぇ。樺地っていう、友情も、愛情も、ほとんど全てが一番がおんのに、それでも、悪友一番の宍戸とジローを取られてまうと癇癪おこしよるんや。でも、ようやっと我慢すること覚えたんやねぇ〜」 わざわざ忍足を探し、跡部たちと入れ違いに来た向日岳人に抱き着きながら、「侑士ワケわかんねぇ・・・!」と突っ込まれても、一人面白そうに忍足は笑っていた。 - - - - - - - - - - 「跡部さんのいちばんを、鳳が奪ってしまったんです。でも、宍戸さんのいちばんを、ずっと昔に俺が奪ってしまいました。きっと、跡部さんだけじゃありません。」 「聞いてたのか?」 「ウス」 「そうか・・・。」 「跡部さん?」 「いや、なんでもない。俺には、お前が居るから大丈夫さ。」 「・・・ウス」 ふわりと笑う樺地を見ながら、宍戸も、慈郎も、どうか、大切な者の前で、優しい笑顔であるように祈った。 僕の我慢は
君と、君の好きな人が幸せであるように、祈るような事なのだ。 20050714 |