あいつの忠誠は、俺ではない何かだ





さながらソルジャー



「跡部、声かけてやらんの?」
「俺が?あいつにか?」

忍足の視線の先には樺地が居た。
忍足の隣では、泣くのか笑うのか未だはっきりしない向日が居た。
その向日の後ろには、俯いたままただ歩みを止めることはしない日吉が居た。

雨の中、傘をさす事すらもままならない奴等の歩みは、ひたすら前に向かう事を繰り返すだけだった。

「声、かけたらんの?」
「あいつがそれをよしとすると思うか?お前は、隣の相棒の心配でもしてやれよ。」

「誰のせいで負けた」なんて真実はどうでもよく、ただ、「負けた」という事実を突きつけられた。
それでも後輩の前で泣く事もせず、毅然と先輩面してる向日岳人を、誰が支えてやれるというのか。
「がっくんは強いからからね、こんなに後輩やら負けたくない奴が居る中じゃあ俺が傍に居たかて泣いてくれへん。俺に背中を預けてくれたとしても、寄りかかるなんてせぇへんよ。」
寂しそうな顔をしながら、紡ぐ言葉は、正反対に優しい。
無性に腹立たしいのは、俺の我侭だろうか。

「一緒に居てやれるだろう。なら、そうすればいい、お前も、向日も、それがいいなら。」

忍足はその後何も言わなくなった。
後ろから、岳人、この後どっかいこか?と言う声が聞こえたので、もしかしたら、日吉も誘って何処かへ行くのかもしれないし、はなから二人で何処かへ行くのかもしれない。
そんな事、どうでも良いと思った。

氷帝テニス部はひとまず解散し、各自後の予定は自由となった。
明日も忘れずに現地集合。時間厳守は当たり前だ。
諸連絡も済まし、もう、此処には何の用事もない。
ならば明日のためにも、早く帰って風呂にでも入ろうと思った。
「お前らも、風邪なんてひかねぇようにしろよ。じゃあな」
部長らしい言葉を残して、さっさと帰った。

結局一度も樺地個人に視線を向ける事無く、何を言うことも無く、俺は家路に着く事になる。










+ + +

「お疲れ様です、坊ちゃま。樺地様は今日はご一緒ではないのですか?」
「いや、俺はまだ試合をしていないし、樺地は一緒には帰らない。そんな事気にしなくて良いから車を出してくれ」
「畏まりました」

迎えの車内で交わした会話はそれだけだった。
樺地が居ない事を違和感に思うのは、どうやらここにも居たらしい。



けれど、勝敗の着いてない俺が、誰に何を言えばいい。
何より、樺地に、俺が何を言えばいいんだ。

「よく頑張ったな」

勝つことしか頭には無く、俺たちに、勝利を持ち帰ろうとしていたそんなあいつのプライドを崩す事を、俺が言えるわけがない。
善戦をしたかったんじゃない。勝ちたかったあいつには、なんと屈辱的な言葉だろうか。

それに、手負の獣のような状態の樺地に、群れのリーダーだと樺地が認めてる俺が行ったら、ゆっくり傷を癒す事さえ出来ないだろう。
大事だからと俺に気を使い、自分を後に回し、いつまで経っても癒えない傷。
傍に来てくれて嬉しいと喜びながら、俺が居なくなった後で思い出す傷と痛みに苛まれる。

俺が傍にいる事で、どれだけ樺地を追い詰めるか。
分かっているのに、今、傍に居れる訳が無いじゃないか。



なぁ樺地、一日だけ待ってやるから、ちゃんと整理して来い。
なぁ樺地、一日だけ待ってやるから、ちゃんと傷治して来い。
俺が傍に居てもいいように、早くしろよ。










なぁ樺地。お前は戦士だから、自分に忠誠を誓っているんだろう?
だから負けてしまったお前は、お前に詫びて、許しを請わねばならないだろう?

せめてお前が騎士なのならば、俺に忠誠を誓う騎士だったのなら、俺たちは、こんなに苦しい思いはしなくてもすんだんだろう。



















































20051103