曖昧ハビトゥス





ゆったりと、しかし確実に蔓延していく毒のように。

この心も、行為も、全て・・・



「この想いに、なんと名づけようか?」

一番初めにそういったのは誰だったか?
気が付いてしまった時には、既に確かに広がった甘ぐるしい想いが、きっと名前も知らないうちに、既に全身へ巡っていたのだった。










+++

「あれ?日吉」
「何だ。鳳か」

春休みの屋上の温室は実は穴場。天気がよければより一層人気が無い。
甘ったるいほど濃い花の香りも、わざとらしい程色に溢れた色彩も。

「珍しいね、日吉が此処に来るなんて」
「お前もだろう?」
すこし苛立ったような雰囲気を纏わせて、日吉は立ち上がろうとしていた。
「そんなに嫌がるなよ。別に、俺はお前のこと嫌いじゃないのに」
「うるさい。手を放せ、見下ろすな、俺はお前なんてどうでもいい」

殊更に低い声を出して、俺をにらみつける。

「お前になんて、俺の気持ちは分からない。」

そう言い捨てた日吉の顔が、酷く痛々しくて、俺は掴んだ腕を離してしまった。

ばたんと閉じられた扉は、彼の性格を表すかのように、静かに閉められた。どんな時でも、彼はそれでも、礼儀正しかった。



「・・・俺の気持ちだって、日吉には分からないよ・・・」





+++

「日吉、」
「樺地・・・お前も俺を見下すか?」

彼らが、俺を見下していない事なんて、俺自身が一番分かっていた。
俺を見下しているのは、他でもない、俺自身なのだ。
俺は、未だに、選んでもらう事すらない。

「言葉に悩まなくていい。お前はいいな、跡部さんに見てもらえて」
「日吉・・・」

屋上には鳳がいる。樺地も行く。
俺だけが其処へ居る事が落ち着かないのだ。
絶対的な壁は、いつでも俺の中にある。

階段を下りながら、堪え切れなかった涙が流れていくのを感じた。
しかし俺は泣いてはいない。
ただ勝手に、涙が溢れて止まらないだけなのだ。

「俺を、誰が認めてくれるんだよ・・・」

ダブルス要員として、滝さんと組んでいる鳳が。
跡部さん直々に教わってシングルス枠に居る樺地が。

羨ましいのは、悔しいのは、そうだ、あいつらが、人から認めてもらえてることなのだ。





+++

「大丈夫か、鳳」
「ああ、樺地・・・うん、別に大丈夫、ただちょっと、考え事してただけ」

温室の入り口近くでぼんやりとしていた鳳。
階段を必死の形相で下りていった日吉。

「日吉を、傷つけたかもしれない」
「お前も、傷ついたんじゃ ないのか?」

ふわっと笑うその顔は、鳳のダブルスパートナーの、滝さんに似ていると思った。

「なぁ樺地、跡部さんのこと、好き?」
「あぁ」
「其れは、どれ?」
「・・・何 が・・・?」
「その感情は何?愛情?友情?それとも、卒業した先輩たちが陰で言ってたみたいな、主従?」
泣きそうな笑顔で、俺の答えを待つわけでなく言葉を続けた。
「日吉は、何に傷ついてるんだろう。俺は、何が苦しんだろう?」
「鳳・・・?」

「ねぇ樺地。もしかしたら、俺達は曖昧なこの日常を、壊さなきゃいけない日が近づいてるのかもしれない」

はらはらと涙を流している鳳を見ながら、跡部さんへの想いが何なのか分からない自分に、酷く苦しくなった。










+++

いつから、好きになったのだろう?
この身体は、いつから、こんな甘苦しい毒を体内に溜めてしまったんだろう?

誤解されて悲しいとか、
傍に居る事も出来ないから悔しいとか、
一つになれない苦しみとか、
もう、何も分からなくなるほど、それすらも当たり前の日々だったと、いつから、そんな風に想ってしまっていたのだろう?

日常に溶け込んでしまったこの想いは、何処へ流れていくのだろうか?















いつか、想いを打ち明けて、その先へ続く未来も、いつかまた、日常になるのだろうか?


















































20050314