何処までこのまま、行ってみたいか?





月の明るい夜に、塾から家に帰ろうと途中で横切った公園のジャングルジムのてっぺんで、今にも泣き出しそうな、笑い出しそうな、曖昧な表情を浮かべていたあいつに出会った。
いっそそ知らぬふりをしてやろうと思ったけれど、「よぉ滝」と声をかけられてしまったから、仕方なく俺もジャングルジムのてっぺんまで登ってみた。



本当は、寒いし、帰りたいんだけど。



なんて言わないよ。
滅多に人に弱みを見せないお前が出したSOSを無視できるほど、お前との関係は浅くないからね。
俺って優しい。










+++

「よぉ滝」

塾の帰りに、家に帰るために横切った公園の、ジャングルジムが月に照らされていた。
もっと小さな頃ならば、上を目指してきらきらとした眼で上ったんだろうけど、既に178もある俺には、なぁんの苦労もなかった。

高く登ったら、月に手が届くだろうかなんてロマンチックでアホらしいことは、もう思わない。
思えるだけの幼さは、とうに捨てた。

なんとなくよじ登ったジャングルジムの上で、誰かが通り過ぎるのを待つ。
そろそろ初雪もちらつく頃だとぼんやり思う。そう、そろそろひと肌が恋しくなる頃だ。
きっとだからだ。一人がなんとなく嫌になってきた。

こんなとき、岳人を呼び出せば一発で駆けつけてくれるだろう事も分かっている。分かりきっていた。
だけどどうしても、呼ぶわけには行かなかった。

だってなぁ、今お前を呼んだら、きっと俺、泣いてしまうもの。

きらきら、お月さんキレイやぁなんて想いながら、誰かが通り過ぎるのを待った。
誰かなんて失礼か。滝が。きっと通り過ぎるて分かっててんからなぁ。
塾が一緒なのは、ちゃーんとしっとる。抜け目なんかあらんよ?俺。

岳人じゃなくてもいいから。今誰かにそばにいてほしかった。
そんな事を言ったら、きっと殴られるだろうけども。



寒いと言いながらおれの隣に座る滝は、きっと、弱ってる俺に気が付いてるのだろう。

「で、どうしたの?」
寒いんだから早く言えと言わんばかりの表情で、声は優しかった。
「滝は好きな子居てる?」
「藪から棒に・・・どうせ知ってるんだろう?」
「日吉」
「・・・やだねぇ。黙ってたってばれるんだから・・・」
「なんとなくな、雰囲気が似てきててんもん」
一瞬の間の後に白状した滝は、好きな子=恋人何だと言う事も明かした。
「キスの先がさっぱり進まないけどね、可愛い子だよ。で、お前はどうなってんの?忍足」
「好きな人居てん。」
「岳人?」
イエスもノーは言わずに微笑めば、それが答え。
「なぁ滝。俺な、できればこのまま大阪に帰りたい。」
「・・・はぁ?」
正直な気持ちをこぼして返ってきた言葉がこれかい。少し力が抜けた。
「このまま大阪に帰って、愛しい気持ちだけで、きれいなもんだけで生きてきたい。」
「そう」
「岳人はきっと、気づかない。ほなら俺はきれいなままで居て欲しい。なーんもいらん。」
「相棒だから?」
「相棒としてでも傍に居れた事実があったらそれでいい。そのまま大阪に帰って、何年かしてまた会って、嗚呼あん時、俺がっくんが好きやったよーって、笑いたい」
「それでいいの?」
「そーしたい。そーせなあかん。知らないなら、知らないままの方がいいもんかて仰山ある。」
ずるずると吐き出た言葉。
好きな人を好きだという滝がうらやましかった。
好きな人に好きだという滝がまぶしかった。
「どうせ一つになれんのなら、どうせいつか離れなあかん日が来るなら、はじめっから手を伸ばさないでいたい。」



冴え冴えとする月夜の晩。 公園には、しんと、沈黙が降る。


「別に、忍足がそうしたいならそうすれば良いんじゃない?
そうやって、死ぬまで自分から逃げればいいし、死ぬまで岳人に縛られればいいよ。じゃあ」



冷たいほど月が輝く夜に、その声は、ひどく冷たく、ひどく温かかった。



+++

言って降りたジャングルジム。
きぃつけてなぁとのんびりした声が降って来たので、言われなくてもそのつもりの俺は、振り返りもせずに手だけを振っておいた。

空を仰げば、月が燦然と輝いていた。
一瞬、涙の音がしたのは知らないフリをした。



岳人か自分かしか選べないような奴、俺はしらない。

婚約者が岳人に似てればいいね。
居るかどうかもしらない(どうせ居るんだろう)けど相手に、哀れみの気持ちを込めた。

いっそすべてを認めてしまえばいいのに。お前が思ってるほど、岳人はけして弱くないのに。
準備ができてないのは忍足一人で、岳人はすでに受け入れる準備ができているとは、教えないままにした。
それは二人の問題で、俺は知っていても口に出してはいけない事だ。



愛情だと信じないフリして、慎重に歩こうとする忍足を裏切ってるのは、忍足自身。
そんな半端な想いだから、友情だと信じ込む。

そんな食い違った感情は、どこでどんな事が起きるのか。





忍足はどこまでこのまま行こうというのか。それが見ものだと思う。



俺はきっと、破綻の日は、すぐそこだと思うけども。


















































20080111