ねぇタカさん

何?不二?

・・・ないでね・・・?

え?

・・・・い・ね・・・?

何?わからないよ、不二!




愛し君よ





「不二?!」

起きた拍子にベッドから転げ落ちるというクライシスは、そもそもベッドがない俺には存在しない。
伸ばしきれなかった手を見上げながら、夢の中で、不二は俺に何を言いたかったのか、ぼんやり考えた。

あんまりにもぼんやりしてたら、
「いつまでぼけっとしてんだ!とっとと顔洗ってこい!」
と、朝から元気な父ちゃんに、エプロンを投げられた。

「あぁ、うん、タオルとか、そうゆうんじゃないんだ、投げるもの・・・」
と、ぽつりともらしたら、硬く縛った手ぬぐいが投げつけられてきた。

危ないなぁとキャッチして、これといって変わることのない朝を、これといって変わった事もない自分は過ごして、走って学校へと向かう。



空は青くて、今日も心地よい晴れ。

「あ、おはよう不二!」
「ああ、おはようタカさん」

途中まで走れば不二に会えるって知ってる俺は、毎朝全力疾走。
たわいない会話をしながら、学校へと向かう。ささやかな幸せは、いつだって自分のモチベーションを上げてくれる。
だからそう、今日見た夢は何だったっけ?さっぱり忘れてた俺に、君は何も言わない。

「そうだ不二、」
「何?」
「今日、多分、不二の夢を見たよ。なんか、少し寂しそうだった」
「そう?僕は別に、寂しいと思ってないのにね?」

不二がいつもどおり笑う。俺は気づかない。
好きと言って始まった頃と今を比較しても、大して変わらない関係。
いつだって君が大切で、大好きで、触れたら壊しちゃいそうで、今でもおっかなびっくりしてて、でも少し触れた手にびっくりしてうれしくて、どうしようもなくて真っ赤になる俺。
いつだって色々と一杯一杯。だから、何にも気づかないまま、また、同じような一日を繰り返そうとしていた。










+ + +

「おおいし〜!!!」
英二が大石に飛びつくのは日常茶飯事で、だからどうだと今更誰も思わない。
ひっついて噛み付いて、じゃれ付いて楽しそう。
皆笑う、日常。

「僕たちも、じゃれてみる?」
不二がにこにこと笑っている。
「えぇ〜?!」
真っ赤な茹で蛸より赤いかもしれない俺に、冗談だよと笑った。
確かに笑った。

「さてと、そろそろ準備運動始めないとね。」
「あ、そうだね!」
「英二!ストレッチ付き合って!」
振り返らずに、英二の方へ行ってしまった不二の今の表情はわからないけど、確かにさっき、不二は笑った。

「不二・・・?」
「どーしたんすか〜?河村先輩」
桃が訊ねてきても、自分にもわからない。
「わからないよ・・・」
だからそう言う以外、他に何もなかった。



「そういえば、河村先輩と不二先輩って、付き合ってんですよね?」
「うぇー?!」
「いたっ!いたいっすよ河村先輩!!」
柔軟をしていた桃の背中を思い切り押してしまい、下から悲鳴が聞こえた。
「あ、あぁ、ごめん桃」
「で。付き合ってるんすよね?」
「えと、うん、つきあってる、よ」
「のわりに、ストレッチとか、一緒にやんないっすね?」
「え?うん、体格違ってて、やりずらいからじゃないかな?」

なんとなくでそんな事を言ってみて、そういえば、好きだと言ってから、一度も触れあったことがない事実に気が付いた。

「ごめん」
「は?」
「ごめん桃。この後の柔軟とか、ストレッチとか、英二とやってくれるかな」
「えーと・・・?あ・りょーかいっす!」
詳しいことを口にしなくても気が付いてくれる、ははっと笑う頼もしい後輩を残して、不二の居る場所へ向かう。

俺はなんて馬鹿なんだろう?



「不二!」

「え?」
「ごめん英二、あっちに桃が居るから、俺と変わって!」
「おっけ〜!がんばってにゃ〜!」
「ありがとう英二!」

強引に連れ出して向かい合う。
「不二、不二、ごめんね?」
「いきなり君は何を謝ってるの?」
「もし間違ってたら、ごめんね?」

言って触れる。手を握る。

俺は、不二が傍に居てくれるだけで嬉しくなって舞い上がってしまう。
それだけで満たされてしまうから、まだ次の段階なんて考えも及ばなかった。

「まだ、まだ緊張しすぎて不二の手だってまともに握れないんだけど、俺がんばるから・・・もっとちゃんと、不二に触れたいから・・・!」
「タカさん・・・」
「ちゃんと話そう、不二はどうしたいか、俺はどこまで出来るか、俺はどうしたいか、不二はどこまで出来るか、ちゃんと話そう、我慢とかはよそう?」

不二からいつもの笑顔がなくなる。うつむいてしまったから、表情は見えない。握り合った手だけが、俺たちを繋いでいた。
ただゆっくりと吐き出されてゆく言葉は、少し震えていた。

「不安だったよ、いつまでたってもタカさんは手すら繋いでくれないから、いつかタカさんが僕から離れていくんじゃないかってずっと怖かった」
握られてる手に力が込められる。放さないと言ってるように、ぎゅっと握られる。

だから握り返す。この手を、放すもんかと言い切るために。

「不二のことを、手放せるわけないじゃないか・・・だけど、もうちょっとだけ待ってて欲しいんだ、まだ、俺は不二が大事すぎて、触れることすら怖いんだ」
「うん・・・タカさんが、僕にちゃんと触れてくれるの待ってる。僕は君を待ってるから、なるべく早めにお願いするよ」
「はい。精進、します・・・」

頼りなげに笑った俺に、嬉しそうに笑った不二がしがみついてきても、なんとか俺は支えられた。
もう少しして、もっともっと君が大事になったら、俺はちゃんと、君を抱きしめて放さないで居られると思う。










今はまだ、手を繋ぐだけでも精一杯な俺に、君が嬉しそうに微笑む。

精一杯だけど、不器用だけど、愛しい君を手放したりはできそうもない、僕らの日々の話


















































20051029