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+ 名前 +
逃げ出すように後にした故郷から、誰一人知り合いの居ない学校へ着いて、初めて自分を見つけて名まえを呼んだのは、だれでも無いあの人でした。 そうそれは、教師より先に、寮母より先に、シスターや神父様より先に。 「お前、この学校に入るのか?俺も此処に通うんだ、四月から宜しくな、えっと…俺は赤澤ってんだ、」 「僕は観月。観月はじめです」 「そうか、じゃあ、観月、改めて、四月から宜しくな!」 ああ、此処で僕は生きるんだと立ち竦んだいた校門の前。 振り返る事は赦さない、勝つためだけに、此処へ来た。 そんな僕の胸中なんて知らずに、不意に声をかけてきたあの人。 彼は、家が近所なんだと笑ってさった。 「どうかしましたか?観月君。とても笑顔ですね」 「ええ・・・いえ、何でもありません、学長」 僕の名前を、初めて呼んだのは、貴方なのですよ。 それはきっと、僕の中で誇らしい事。 名前さえも捨ててしまえればいいといつか思ってた僕に、君が僕を認識してくれた名前。 君が初めて僕を呼んだ。 その名前が、僕の持ち物。 |