俺が何も知らずに飛んでいたアノ空は、なんという名前だったのか。
俺が何をも忘れて飛んでしまえば、アノ空を飛べるのだろうか?



+ 空の名前 +



俺色夕焼けの下、南と俺と、てぽてぽと歩いてた。ゴールなんていっそ、見えなきゃ良いのに、ただひたすら歩いていた。
南は自転車で俺を駅まで送ってくれる。俺は、そこから、電車に揺られて二駅向こうの家まで帰る。
下りではなく上りの電車。下校ラッシュも登校ラッシュも俺には無関係。俺ってらっきぃ。

「なぁ、南」
「うん?」
「キヨスミって呼んで?」
「はぁ?」
「キヨスミって呼んでよ」
「や。」
「わ!即答ですか?!」
「阿呆くさい、付き合ってらんね」

「ケチデスネ」
「アナタハトウトツデスネ」
「何だよ!もう!」
如何して良いかわからないから笑ってみた。あっはは!なんて、笑ってみた。

よくわからないけど。苦しい、苦しい。手を伸ばして、伸ばして、


「お前の頭とおんなじ色の空に手ぇ伸ばして、何か、変。」

まったく、何て事を言うのでしょう?この男は。
「南が呼んでくれなくても、あっくんとか、東方とか、新渡戸に呼んでもらうもん」
「はぁ?」
「キヨスミのくんの気持ちをわかってくれん男など、どうでも良いのですよ!」

苦しいばっかりの想い、八つ当たっただけ。




「夕焼けきれいじゃん。俺、ああいう色すっげ好きかも」
「俺の髪、日にすけるとあんな色だよ?」
「おー、じゃあ、お前の髪の色も好きかも知れない」
いつかの帰り道、ふっと南が言った。まだ、地毛のまま学校へ通っていた頃、まだ、幼さが残りまくる南が、屈託なく笑って言った。
明るい茶色が地毛で、日に透けるとオレンジがかった自分の髪があまり好きくなく、よもや、嫌いだった頃。
南は俺のコンプレックスを、丸ごと受け入れてくれた。
「南は、オレンジが好きですか?」
「なんか、夕焼け色が好き」
「ふーん」

南は、俺の髪、好きなんだ。お母さんに褒められるより、ずっとずっと、うれしい。

土日を挟んだ月曜日、珍しく朝早く起きた。今日は、朝練普通にいけそう。遅刻しないよ、ヨカッタヨカッタ。
ふわふわの髪の毛を、びしっと決めて、白い学ランに袖を通す。
南はきっと、喜んでくれる。
朝早く、遅刻もせずに部活に出れた俺を、きっと、いっぱい褒めてくれる。

「な・・・!」
学校へ行って、一番初めに出会ったのは、嬉しい事に南だった。
「ねぇ、南、俺、今日は遅刻してないよ!」
「おー、偉いえらい。……って、ちげぇだろう?!」
「褒めてくれないのですか?」
「来たのは褒める。や、来るのが当たり前だけど。うん、で、その頭はなんだ…?」
「オレンジ」
「色は訊いてない」
「南は嫌いですか?」
「や、色は好きだ、だからそうでなくてですね?」
「なら、問題なし!」
「嗚呼もう…」
「南が喜んでくれるなら、いいんだ!」



ただ単純に、好きだと思ってた。それは、大切な親友に向ける大好きだと思ってた。



「千石の南に対する好きは、もう、友達の範疇を超えてるよねぇ」
みょんみょん双葉が俺に言った。
「え?」
「千石は、意外に初心で鈍感だねぇってお話だよ。」
「新渡戸…?」



「てめぇの好きは、友情の範囲を超えてんじゃねぇか。俺をあのくそ真面目の代替に使ってんじゃねぇよ」
中途半端ヤンキーが俺に言った。
「俺はあっくんが好きだよ?」
「俺への好きと、南への好きはちげぇだろうが」



「千石、俺にやきもちを妬くのだけはやめてくれ…お門違いだから…」
無駄に地味なオールバックが俺に言った。
「妬いて…?誰に?」
「…それは天然なのか?なぁ、俺の背中が痛いのは何でだか考えてこい。」



よくわからなくて、何でみんなそんな事言うのかさっぱりで、途方にくれて南を頼ろうとした。
それじゃ解決にならん気がして、速攻やめた。





あれから二年近く経って、俺は未だに答えを出せないままだった。
いつからか、苦しいばっかりの心。
呆れ顔なんてしないでよ。大好きなんだ、大好きなんだ。
名前を呼んで、俺を縛って、ねぇ、南、愛してるんだ。



嗚 呼 ・ ・ ・



二年近く、よくわからない思いにさらされて、見つかった答えがこれなのですか?
ねぇ南、愛してるだなんて、気がつかなきゃよかった。気がつかなきゃよかったよ。

オレンジの髪は、南に好きって言ってもらいたかったから。気を引きたかったから。その頃から、ただ、俺だけを構ってほしかった。
ああ、なんと言う取り返しのつかないことを。愛なんて、気づきたくなかったのに。





「ねぇ南、  って、言って…」
「え?」
今日だって、空は俺色なのに。





俺が忘れてしまっていたあの空の名前は










無知故の、君への『愛』。










こんなに狂おしいほどの気持ち、それに名前さえつけなければ、俺はあの、名も知らぬ空を、飛べていたのに。










もう、何も知らないフリをして、飛べない。飛べないんだ。










ねぇ南、お前は、もう一度、俺に空を飛ばせてくれるだろうか?










君の空で、飛ばせて欲しい。





初掲載 20040325




20070711