失ってしまうわけにはいかない。
其れは一対で居なければならないのだから。





貴方を護る為になら






「ご苦労。いってよし。」
信じられない言葉を聞いた気がした。降格を想定して監督の前に立っていた。
正レギュラーという地位に甘んじていたわけではない。
常に下から狙われている事と、常に上から堕ちてしまう事の恐怖に曝されていた。苦しいと弱音を吐くわけにも行かない。出来る事は、常に其の身を最高のモチベーションに引き上げて、余裕を見せ付けておく事だけだ。
それなりの苦労をして立ち続けた地位を、転がり落ちる様をこの眼はまざまざと焼き付けていた。

ーアレは、いつかの、自分の姿ー

恐怖が拭えるわけは無い。目の前で、降格を宣言された彼らの末路など。眼を瞑っていたってリアルに見えるのだ。





微かに聞こえる、ボールを打ち合う音。
眼を開けたら、コートが見える。
自分は、今、何処に居る?
自分は、今、何をしてる?

「自分は、どうして此処におるんや?」
「あん?何言ってやがるんだ。腐れ眼鏡。」
「俺の眼鏡は腐れてんで?」
「ああ、すまなかったな。腐ってるの頭の方か。」

軽い・眩暈。
確かに、あの時、俺は宣告を・・・



「侑士!」

「侑士!!」
「岳人・・・」
「何してんの?侑士。いくら俺達の大会終わったからって後輩鍛えてやんなきゃ!俺先行くよ!」
「ああ・・・」

大会は終わった・・・?
其れを見越して宣告が訪れなかった?
其れは有り得ない。
最後のときまで、俺は。俺達は。諦めると云う言葉なんか知らなかった。
何一つ。何一つ。手に入らないものは無いと。

ああ、長太郎は泣いていたか。
若も泣いていたな。
樺地はただ黙して。
次代に託さざるを得なくなった願いを。

ああ・・・。

宣告は、受けていとしても。
其れは全く役には立たなくなってしまった・・・。

何故か振り落ちてこなかった宣告も。
今はただ、過ぎてしまった夏を憂いた。





「ねぇ、岳人?」
「何だよじろー。」
「忍足には教えてあげないの?」
「んー?あぁ、あれね。教えないよ。」
「なんでぇ?」
「だってよ、ゆーし、言ったら泣くモン。泣き虫だからな!」
「そうなの?」
「そうなんだよ。意外と、涙もろいんだ。言うなよ?じろー。」



言わないよ。あいつには。
負けを想定してたわけじゃないけど。それでも万が一があるから。
絶対に負けない自信があったけど。でも、絶対なんて無いから。



「監督。もし、俺達が負ける様な事があっても、忍足侑士をレギュラーからはずさないで下さい。俺をサポートして、俺が強くある為には、あいつがいなきゃ出来ないけど。あいつは、一人でも。ほんとは、一人の方が、きっと、強いから。」



考慮しておこうと、優しく言ってくれた監督を信じた。
俺には、自分で飛ぶ事は出来ないから。

ねぇ、侑士。
弓は毀れていなかっただろ?
俺は飛べたよ。
的に当たらなかったのは、弓が壊れてたんじゃなくて、矢が、壊れかけていたんだ。

でも、如何かお願い。
矢が壊れてしまったら、其の弓も一緒に無くなって。










20031021
今朋 獅治

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