だからといって。

沢山の薬の中で。

これほど副作用の強い薬も無いだろう。





想いと云う名の薬物中毒。


酷い頭痛に苛まれる事が度々在った。
傍にいつも、水差しと薬。天蓋着きのベッドの上で、項垂れて過ごす昼下がり。



群集に身を隠そうとしても、其れは無理というものだ。
其れは、すでに。今の彼の定位置からして無理なのだ。

酷く大きな其の体を、不安そうに隠していたのを見つけ出したのはおよそ九年前。
小さな時から其の身体は大きく、何を怯えてるのかいつも何処かに隠れていた。
親が知り合いらしい。そんな理由で見知ったアレを、居なくなる度に探すのは俺の役目だった。
下手をすれば日に何度か居なくなる。
炎天下の下、延々と探して続けて、具合が悪くなる時もあった。それでも初めの内はかくれんぼの要領で探していたが、流石に探すのが億劫になってきた頃、
「何を怯えてるのかしんねぇけどな、俺様は何一つ怖くねぇ。だから、そんなに怖いんなら、特別にお前は俺の後ろにいることを認めてやるからどっかにいくんじゃねぇ。」
と、酷く自分勝手な約束をして、其れは今に至っている。
どんな時でも自分の後ろで何かに怯えている奴を、自分は甚く気に入っていた。



生まれた瞬間から人より偉い立場に居たから、それこそ、今更自分が優位に立てる相手を探す必要も無い。
対等でいる相手こそ必要なもので、小さな俺を相手に謙る奴を、容赦なく見下していった。
頭痛が酷い。自分が自分の放出する嫌悪感に中てられて行く。
その場にいれば、俺は、俺を内側から壊してしまう。
想像に怯え、現実の痛みに苛み、如何にもなら無いまま過ごしていた。
だから。何も語らず・媚を売ることも無く。唯俺に必死で付いてくる奴を、甚く気に入っていた。



俺が探しに行かなくてもアレから傍に来るようになるのに、さした月日は必要としなかった。
それでも、ふと居なくなる事が稀にあった。そういう時は、大抵、自分が不機嫌になるほんの一瞬前だった。

無言の肯定は恒で。
「俺様の命令を、其れだけを忠実に守っていれば良い。」
そう言った事をどう曲解したのか、俺の命令が意の一番で、その次は、「その他」でしか無くなっていた。
其の事は酷く自分を愉しませ、だから依然と其れを甚く気に入っていた。





「なぁ、跡部、樺地は何に怯えてたんやろね?」
「は?」
「自分、いつから頭痛薬を必要としなくなった?」
「・・・」
「答えた無い?じゃあ、跡部。純粋だと、自分が賞賛した人間は、何を心配し続けてたんやろね?」
「忍足・・・もう、何も言うな・・・」
「樺地が傍に居らんようになって、情緒不安定に拍車かかったんは誰?」










怯えていたのは、俺か?
守られていたのは俺か?

自分の機嫌が、最悪になる少し前、必ず何処かに居なくなるあいつを。
探す事で、原因から少し遠のいて。

感情に左右されやすい自分の体調を。



少し不安に揺らぐ其の目を。させていたの紛れも無い。自分なのだ。





「やぁ、樺地。いつから其処で立ち聞きしてたん?」
忍足の声で気が付いた。いつから、あいつは此処に居たのだろう・・・?



俺は、もう、手放してやら無いといけないのだろうか?



「樺地・・・」

「ウス」

「お前なんか、もう、要らない」

「・・・ウス・・・」










立っていられない程の激しい頭痛。
失う事への激しい拒絶反応。
心の一つでもくれたら、副作用は収まるだろうか?





そんな如何でもいい想像論よりも、今、お前が俺を抱いた方が、きっと早いと。
更に酷い理想論を、薄れ行く意識で想った。





ホラやっぱりと、したり顔でせせら笑う、忍足の顔に、苛立ちと、感謝を覚えた。










20031201
今朋 獅治

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