其の猫は、とても綺麗なオレンジ色の毛並みだった。










ッキーを君に。ンラッキーは僕が。



++++++++++ + ++++++++++

其の日は雨が降っていた。土砂降りとは行かない程度には降っていたと思う。

責任ある部長として、雨の中部員(やつら)を練習させるわけにはいかないので、その日は仕方なく休みにした。

視界の端に、オレンジ色の頭をした、酷くへらへらした奴が映った。

一緒に居るのは亜久津だった。

「あぁ〜南ジャン。ばいばい。」

と言われたが、聞こえないフリをして、ただ一人で雨の中を帰った。



++++++++++ + ++++++++++

「ねぇあっくん。南は俺のこと嫌いなのかな?」





「しらねぇ。」

「ねぇあっくん。君ってば俺を何だと思ってる?」

「セフレ」

「あ。っそう。」

「他には?」

「善いよ別に。」

「お前はお前だろう」

「・・・ねぇあっくん。」

「あ?」

「別れよっか。」

「勝手にしろ」

「ありがと」

「せいぜい地味に振られてこい。」

「ねぇあっくん。振られたら慰めてよ。太一の次に愛でてくれればいいからさ。」

「覚えてたらな」

「ラッキー。嫌って言わなきゃあっくん大体やってくれるんだもん。」

「バカ言ってねぇでさっさといっちまえ。」

「ねぇあっくん。本当は知ってたんでしょ?俺の気持ちも太一の気持ちも、あっくん自信の気持ちも。
知ってるよ。太一のために俺を選んだことくらい」

「何のことだよ」

「優しいね。あっくんは。太一には見えない優しさ。俺には見える優しさ。大好きだよ。そゆとこ」

「そりゃどうも」

「如何いたしまして。」

「おい。」

「なぁに?」

「言うなよ」

「分かってるよ。ほんと太一には甘いんだから。」

「いいんだよ」

「そうだね。うん、じゃあね。」





走って追いつく距離に居てくれればいいけど。

でもま。大丈夫でしょ。

真っ白のスラックスが汚れる事くらい如何ってこと無い。

何だろうねぇ?この角を曲がったら、居る気がしてきた。



「みなみ・・・」



++++++++++ + ++++++++++

小さな声に呼ばれた気がした。





何だ?と思うと、薄汚れた小さな猫が、俺の足元にすり寄って来た。

どうした?と思う前に、その猫はふらりと倒れた。

「冗談・・・」

ごちた所で仕方なく、なけなしの金を持ってることを確認して、動物病院へと走っていた。



「たいしたことは無いですよ」

といわれ、果たして何が如何たいしたこと無いのかは知らないが、俺は其の猫を受け取った。

中学生には痛い出費をして、俺は家路についた。

病院を出る時には雨は止んでいて、そういえば俺は傘をどうしたのか記憶が無かった。



++++++++++ + ++++++++++

傘が鮮やかに舞った





「みなみ・・・」

居たんだよ。居た。

彼は其処に居た。でもね、彼の足元で、こっちを威嚇された

お前になんかあげないと言われた気分だった。

まもなく足元の猫はぱたりと倒れて、彼の腕に抱かれた。

彼の居た跡には、傘が落ちていた。

かちっと閉じてちゃんとたたんですがりついた。

慟哭と言うのはこういうものだろう





あのオレンジの猫はきっと俺だ。





もう一人の俺が、なかなか正直にならないから、きっと奪いに来たんだ。





猫と人間、オレンジのものに愛されて、君はラッキーだね。





でも、ほんの少し出遅れて、僕は如何にもならないアンラッキー



++++++++++ + ++++++++++

結局猫は飼うことになった。





家に着いたらやたらと元気だった。

何となく悔しくて、そいつを風呂へいれた。

果たして猫に何のシャンプーを使うのか?

分かんねぇ・・・。

そもそもシャンプーだけでいいものなのかもわかんねぇ。リンスはいらないのか・・・?

もういいや。お袋ので・・・。少なくとも綺麗になるし、サラサラになるだろう。

暴れる猫を押さえつけて、がしがしと洗った。

薄汚れてた猫は、綺麗なオレンジ色をしていた。



「千石・・・」



抱きっぱなしにしていた猫は、抱き方がまずかったのか、

「ふにゃあ!」

と怒ったように鳴いて、俺の腕から逃げてしまった。

奴に首輪をつけなければ。

そう思った。



意味なんか知らない。



++++++++++ + ++++++++++

逃げれ無い様に首輪を着けられた気分だ。





「千石と言いますがけんたろーくんは・・・」

「何の様だよ、千石」

「あぁ、南?」

「ああ。で?」

「あのね、南にさぁ、大事な話があるんだよねぇ」

「電話じゃ駄目なのか?」

「出来ればね。」

「じゃあ、これから来いよ。」

「ん〜・・・っていうかさぁ、」

「あ?」

「俺ってば南んちちゃんと知らないや。」

「駅まで迎えに行くよ。」

「ラッキー。じゃあこれから行く」

「ああ。」

「また後でね」



++++++++++ + ++++++++++

後でって言うか、もう行かなきゃならん。





一体何のようだと言うのだろう?

とにかく迎えに行かなきゃ

「にゃあ!」

「なんだ?ちびすけ。俺出かけなきゃいけないから相手してやれないぞ?」

「にゃあ!!」

「は?」

何言ってるのかちっとも解らないし、足元から離れようともしない。

参ったなぁ。

「お前も行くか?」

「にゃあ。」

「・・・自転車から堕ちるなよ?」



かごに猫を入れて、取りあえず急いで駅へと向かった。



++++++++++ + ++++++++++

「早いねぇ南。」





「人を待たせるのは性に合わないんだよ」

「そう。あ、コレ」

「俺の傘・・・何処にあったんだ?」

「道端に落ちてた。律儀に名前書いてあったから。」

「そっか。ありがとう」

「ううん。如何いたしまして。」

「ちびすけ拾った時に落としたみたいなんだよな。あ、ちびすけってコレ」

「ふぅん」

「ここに居る猫」

「知ってる。」



知ってるよ。其処に居たのも、いつ落としたのかも。

名前なんか見なくても誰の傘だったのかも。



++++++++++ + ++++++++++

千石に拾われた傘を自転車に引っ掛けて、家へと歩いた。





「ねぇ南。」

「うん?」

「オレンジ色の猫」

「ああ。」

「どうして?」

「はぁ?」

「同じ色なんだから俺を拾ってくれれば善いのに・・・」

「千石・・・?」

「ねぇ南。」

「え・・・。」

「好きだよ」

「・・・」

「好きだよ」

「亜久津は・・・」

「あっくんは違う。あっくんは・・・」

「亜久津は・・・?」

「慰めあってただけ」

「何だよ・・・」

「一番好きな人に言えないから。だから慰めあってただけ」

「千石・・・。」

「ナニ?」

「ちびすけな、俺に凄くなついてるんだ。」

「うん。」

「だから逃げないって分かってる。多分、俺の手の届くところにはいると思う」

「うん。」

「だけど、俺の手の中から逃げたんだ。」

「うん。」

「だから俺は、首輪を着け様と思うんだ」

「うん。」

「絶対に逃がさないから」

「うん・・・。」










俺は、オレンジ色の猫に










首輪をつけた











20030201
今朋 獅治

禁 無断転載