恋するサボテン



―サボテンは人の気持ちが解るんだよ―

そう英二に言ったのは僕。そしたら英二は笑っていった。
「じゃあ、大石は俺のサボテンだね♪」
何の臆面も無くそう言える彼が羨ましかった。
そんな事を言い合っていたら、英二の後ろで・英二を見て柔らかく微笑む大石が視界に入った。

何故だろうね…?

僕は…心が苦しくなった…。



河村は僕から求めない限り、絶対に僕に触れない。そう…小指の先も、触れようとはして呉れない…。
もしかしたら、誰よりも優しい河村は、僕をあらゆるモノから守る為にそうしているのかもしれない。
其の事が、逆に僕を疵付けているとも知らずに…。



―スキ―



言葉は河村には届かなかったのだろうか?



相変わらず河村が僕に触れない日々が続く。
其れはまるで拷問の様な日々だった。
確かに部活の時は普通に話す。
何事もなかったかの様に。僕も、君も…。
「俺も…其の…ええっと、あの…不二の事好きだよ!」
其れは"愛"では無かったのだろうか?
寝る事も忘れ悩み続けた僕は、ある日とうとう部活中に倒れてしまった。
青学レギュラーである僕が何て醜態を晒しているのだろう?
倒れた瞬間は案外冷静で、薄れゆく意識の中、僕は微かにだったけれど確かに声が聞えた。
愛しい人の鎮痛な叫び声が…。



目が覚めたとき僕は保健室のベッドで寝かされていた。
身体はまだ良く動かない。
「ああ、目が覚めた?良かった。皆心配してたんだよ。アノ不二が倒れたって」
「はは…皆失礼だなぁ…僕を何だと思ってるんだか…。」
「あはは、そりゃ失礼。でも、約1名、凄く心配してたよ。それこそ、逆に倒れるんじゃないかって位。」
「え…?!」
予想外の台詞に、僕は驚いた。一体誰が…?手塚…は違うな。あいつは越前君が関わらない限り心配なんかしないだろうし。
越前君は心配して呉れたとしても表情に出さないし、きっと生意気な事を云われて終わるだろう。
乾…はデータが取れなくなるのを心配するだけだろうし、海堂は「ふしゅー・・・軟弱っすよ」とか言うだけだろう。
桃と英二と大石は「大丈夫(っす)か?!」とか言って心配して呉れるだろうけど、倒れそうに為りはしない。
目の前に居る大石は何とも云えない微笑みを浮かべていた。

期待は裏切られていく。
でも今だけは信じたかった。彼を…
「あたり。」
不意に大石は言った。
「えっ?!」
「タカさん、すごく心配してたよ。倒れた不二を誰にも触らせずに壊れやすいものを持つみたいに大事そうに抱き抱えて此処迄運んでさ。さっき迄、本当に逆に倒れるんじゃないか?て位心配しながら看病してたよ」
「本当に…?河村が…?」
「ああ。」
ガラッ!!

勢い良く開いたドアには僕の荷物と自分の荷物を持った、息を切らした河村が立っていた。
何が何だか解らなく為ってきて、
気が付けば、唯僕は涙を流していた。
「ど・如何したの不二?倒れた時どっか打った?!それとも運んだ時に俺がぶつけちゃった?!」



「…俺此処で退散するわ。二人でゆっくりしてて。」
そう言って大石は保健室を後にした。気を使ってくれてありがとう・・・大石。

・・・さて、目の前で大きな誤解をしてる僕の愛しい人に、涙の理由をなんて話そう?
「ねぇ河村、相談に乗ってくれる?」
「勿論だよ!俺なんかで善いなら好きなだけ頼ってよ!」
頼られるのがよほど嬉しいのか、河村ははっきりとそう言ってくれた。其れだけで又涙が溢れそうに為った。
「好きな人がさ、僕に触れてくれないんだ…僕が求めるとひどく困った顔をする…僕は…そんなに嫌われてるのかな?」

きっと、自分の事を言われてるなんて微塵も気が付いてないんだね。
だってそうでしょう?もし気付いてたら、君はきっと何も答えられないだろうから…。
「そんな事無いよ!!きっと不二の誤解だって!!ちゃんと聞いてみなよ!」
ほら、やっぱり解ってない…。



僕の気持ちも君の言葉も空回り。
それでも河村は一生懸命慰めてくれようとした。
ねぇ、もう少し甘えても善いかな?
「じゃあ・・・」
「?」
「じゃあ、如何して河村は僕に触れないの?」
「え?!」
河村は心底驚いた風だった。



「ねぇ、如何して・・・触れてくれない・・・の?」
言いながら泣いてしまった僕はとても酷い奴だ。河村が絶対に泣いて
る奴を見捨てられないのを知ってて泣いている。

誰にも渡したくない。卑怯と云われても、僕は其れでも構わない。
河村が僕を捨てられない様にする為なら僕は傷ついても命を落としても善い。





僕は君が好きです。

此の世の何にも変えられない程

例え貴方が愛してくれなくても…

只の…友達でも…

君の心に居座りたい。

出来るなら、

君を

雁字搦めに縛り付けて

誰にも触れさせたくない。

僕のコレクション(サボテン)の一つにしたい

でも君は

自由な意志が在るから

何処にでもいける体が在るから

全て僕の我侭と知っているから





「ふ…じ…?」
僕の問いに河村は言葉を詰まらしていた。
アノ表情を浮かべて
「そんな顔しないでよ…」
何もとって食うわけじゃあるまいし



「ごめん…。もういいよ。河村を煩わすつもりなんて少しも無かったんだ。うん。もういいよ。ありがとう…。此処まで運んでくれて。部活終わったんだろう?帰らなきゃね。暗くなる前に帰りなよ。僕は姉さんに迎えに来てもらうから…。」
僕は気持ちを押し殺してそう告げた。完璧に出来たと思っていた。
今日で、この気持ちとも別れるんだ…そう思っていた。



「不二!!」
目の前が真っ白になった。
「かわ…むら…?」
「そんな台詞、泣きながら言わないでくれよ!」
「え?」
抱きしめてくれた体が温かくて
きつく絞められた腕が嬉しくて。
なんだか僕は良く解らなくなってきた。
「俺は不二が好きだよ!!誰にも触れさせたくないくらい!だけど俺の気持ちも身体もまだ未熟だから・・・!だからまだ触れられない。壊したくないんだ不二のこと・・・。俺のエゴで不二を傷付ける事なんて出来ない俺から触れたら、指の先でも触ったら、俺は、自分を抑えられる自信なんて無いから。」



棘だらけなのは何も僕一人じゃなくて、君も抱えていたんだね。



僕と君は未熟なサボテン。
まだ棘を出すことしか知らなくて、
人の気持ちはまだ見えない。





だから





「ねぇ河村。僕はそんなに簡単には壊れないよ?だから触れて?傷付くんなら、君が善い。」



ねぇ、放課後の保健室なんてどきどきしない?
これは永遠に近い行為だよね?
はやく
早くサボテンになろう?



「不二・・・」





触れる身体のこの先は。勿体無くて教えられないよ。










20020722
今朋 獅治

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