家に帰れば誰かがいた。優しい家族がいた。
愛情も注がれた。一人っ子だから。
祖父は俺に武道と緊急時用に車の運転を教えてくれた。
家族は俺に自分の好きな通りに生きることを望んでくれた。
小さな頃から周りの奴らに比べて知能の発達が早かった。
勉強でも何でも、出来るととても喜んでくれた。

だけど優しい家族だからこそ、俺は自分を曝け出せなかった。
悩ませたくなかった。笑っていて欲しかったから。



帰る家には誰も居なかった。
我侭も言えなかった。
俺の為に自分の為に。
両親は、一生懸命働いてくれるのだ。文句なんか言えはしない。
愛してくれてないわけじゃないことも知ってる。

それでも確かな愛情が欲しかった。
でも口に出して求めることが出来なかった。

いつしか募る暗闇を。誰にも知られないように生きるのに精一杯になった。



暗闇にスクイ願いは煙と流れ往く




未だ幼稚園の頃だった。
誰とでも仲良くしてるのに、誰かに話しかけることの無いあいつが気になった。
何かを言う前に、話しかけられるからなのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
分かったことと言えば、誰も信用してないし、誰にも心を見せていないということだった。
俺とあいつは同じクラスだったけど、普段一緒にいるグループではなかったから、取り立てすごく仲が善いという事は無かった。

あの日までは。

ある日、やっぱりあいつが皆に囲まれているときだった。
「ねぇはるちゃん。大きくなったら、結婚して?」
と、周りのほかの子よりは仲良くしているようにみえる女の子がそう言った。他愛も無いことだと思った。小さな女の子の可愛い独占欲。
「嫌だ。」
と言ったのは照れ隠しなのかとも思ったがどうやら違うらしい。
「俺の事知らないのに君が俺の何を知って俺が好きなのかはわからない。
でも俺は君の事好きじゃない。だからそんなこと出来ない。いつかの約束も出来ない」
はっきりそういった顔は、言われてるほうより辛そうだった。

気が付けば、其の手をとってどこかに走っていた。
「何であんなこといったんだ?!」
そうきいたら、酷く悲しい答えが返ってきた。
「本当の俺を見せれる程俺はあいつを信用できない。心も開けない。」
「俺にそんなこと言って善いのか?」
と問うたら、
「だって、手塚は俺と近い人間だろう?本当のお前も、誰にも見せてないんだろう?」
と囁かれた。気が付けば、するりと心に侵入させてしまっていた。

俺もあいつもナリは確かにガキだったが、中身だけはもっとずっと遠くに在った。
近い思考に、いつしか二人は居場所を見つけた。
言わなくてもわかる。本質が同じだから。
お互いの家を行き来して、俺たちは互いの親の信頼を勝ち得た。



小学校高学年にあがる頃、あいつは煙草を吸うようになった。
「何で吸ってるんだ?」
止めろと言うつもりだったのに、何故かそう尋ねていた。
「さっさと死んでも善いから。何にも執着してないんだ。いつか何かに執着したら、俺はコレを手放すよ。
真っ黒なココを救ってくれる何かがさ。そいつの為に生きたいって思ったら。ありえないと思うけどね。」
「そうか。」
「ごめんね、手塚。俺はいまのとこ、誰よりお前に執着してるし、好きなんだけどね。ちょっと違うんだ。」
そういってキスしてきたこいつに、俺は特別な感情が湧かなかった。

「オイ手塚?!」
慌てふためくこいつの手から、するりと奪った煙草を吸った。

心は未だ凌駕され。二人では傷は癒せず、騙し合うことしか出来ない。

どうかいつか、

俺とあいつの真っ黒な灰と心を救ってくれる奴が現れますように。

俺は始めて吸った煙草にそう願いを託した。
ぽたりと落ちた涙
「大丈夫か?」
そう問われる声に
「大丈夫だ。」
とこたえた。
「泣くほど合わないなら吸わなきゃいいのに・・・。」
と言われた。
「お前に言われたく無い。」
そう言った時のあいつの顔を。忘れる日は来るのだろうか?



こんな不味いもの吸いたくないけど、俺はいつ死んでも構わないから。
生きることに執着できない。このまま全てを真っ黒にして死んでしまいたかった。

だけどそんな俺に同調してしまった手塚の為にも。

出来ればどうか、誰か救って・・・

俺もこいつも煙草に逃げずにすむ日を待ってるんだ。



でもまさか、二人とも男に魅かれるなんて、思っても見なかったけどね。










***

乾+手塚の出会い編でございます。
何ていうか、幼稚園児の会話じゃないですよね??

乾さんから誰かに何かをするって事は友情だろうが愛情だろうが、好きじゃなければいたしません。
データ取りは自分の為なので、相手の事が好きじゃなくても出来るんです。



20020810
今朋 獅治

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