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眼を覚ましたら、急激に世界の色が失われていた。 I cannot speak all things. 僕の体の構成物質は、あの人が八割を占めている。残りの二割はテニスなんだと思う。それが当たり前の生活で、構成物質は同時に僕の原動力で、生きる糧でもあったのだ。いつでも其の為に生きてきた。不意に訪れる死への衝動も、退屈で仕方ない学校をサボタージュしたいと思う事だって、其れを励みに動いてきた。 頑張れば其の分、ささやかにでも還ってくる。嬉しくて、楽しくて、それが誇り。 だから今日、あの人と一緒に居て楽しいんだ。一緒にいれると心が充電されていく。 がたたん・と。微振動を身体に感じて、気が付けば眠っていた車内。 眼を覚ましたら、あの人は隣に居なかった。 僕は、何かしましたか? 「じゃあココで。今日は有難うございました」 「うん、また、おいでよ。」 「はい。先輩も。」 半覚醒の意識の中で必死になって思い出した。 そうだ、違う。端から僕の隣にあの人は座ってなんか居なかった。 手荷物は取られる事無く其処に在る。無いモノは無い。失ったものも無い。 なのに、けばけばしいネオンの光が、車内の明かりが、人々の声が。全てが僕を拒絶するかのようだった。 視覚に入る光も色も、見えているのに僕の感覚は、色を失ったように映った。窓の外の暗闇も、小さな男の子の笑い声も、何もかも、其の命の色が見えなくなった。僕は何処に取り残された? 覚醒した意識の中には隣に座っている人の良くは聞き取れない呟きだけが何故か不気味にはっきり聞こえてくる。まるで、呪詛の様に。 わからないままの世界で、何とか涙も零さずに家路に着いた。 さっきまで満たされていたのに。一緒に居られて嬉しかったのに。僕の狭いキャパシティーを超える程の愛しさをあの人に向けていたのに。 愛してます愛してます愛してます
酷く・愛してます なのに、ねぇ・どうしてですか?僕の、あの人が凄く好きだった思いも、色褪せていました。 あの人が、僕の気持ちを知らないことも知ってます。それでも酷く愛しかった其の思いも、夢だったかの様に遠ざかっていきました。 急激に色を失った世界に対処する方法なんてわからない。足掻くだけの覇気も存在しない。少なくても、僕の構成物質の八割は失われた事だけが分かった。 疲れたのは、今日あの人と飽きるほど遊んでいたからなのだと無理に納得してベッドへ潜り込んだ。時計の音も聞こえない、考える事は沢山ある。楽しかった記憶を反芻して、僕は自分に驚愕した。 心が、動かない。
もう、泣きそうだ・・・ 横目でちらりと盗み見る。常に其処に在るあの人。周りが如何であれ、あの人は変わらず其処に居る。 隣に居て、君は僕を感じてくれてる?周りは、僕が見えてる?僕を通り過ぎていく人の群れはあの人へと足を止める。酷く価値が無いと思う瞬間だ。あの人が人に認められて嬉しいのに、同時に自分の存在価値に疑問が出て来る。僕はココに居ても善いのか?楽しかった会話が突然意味を成さないものに見えてきた。比較対照としてはこれほど残酷な事も無い。 非生産的な想いが。結局、自分の足枷になっていた。あの人への思いが膨大過ぎて、自分のキャパシティーは崩壊を始めていた。気が付いたら止める事は出来なくなってきていた。ガラガラと崩れる足元。酷く酷く哀しかった。 軽快なリズムが耳に障る。あぁ、携帯が鳴ってるのか。 『明日暇なら付き合え』 『疲れてるから遠出はしたくない。』 『了解した。時間は?』 『10時以降ならいつでも良いよ。きっと寝てるからチャイムを鳴らすっていう選択肢以外で起こして。』 あぁ、10時になったのか・・・もう、全てが如何でも良いのに・・・。 『起きてるか?』 『寝てる・・・』 もう、このまま目覚めなくてもいい。 憂鬱な顔をして玄関を開けた僕に、彼は怪訝な顔をした。何だって言うの?ねぇ、僕は疲れてるだけだ。 「寝起きは不機嫌だな。」 「起きて早々ハイテンションな奴なんて怖気がするよ。」 不機嫌な理由なんてたかが知れてるくせに。 「何にも無いんだ。」 そう・言う事も躊躇した。今更。今更彼に何を遠慮しているのか。ささやかに自嘲。 全てが馬鹿馬鹿しくて泣きそうだ。昨日から僕は、僕の根底から崩れてきていて、立ってる事も、生きてる事も、全てが苦しい。 残っている僅かな「人」としてのプライドだけで今、ココに存在している。 「楽しかったんだろう?」 「昨日、一緒に居るまでは少なくて死ぬほど楽しかった。」 「昨日・・・?」 「今は、全てが如何でも良い。今なら君に、何でも譲ってあげられそう。」 全て手放して、後悔したらきっと本当は好きで仕方ないんだと思う。手放した其の手を、掴む為に必死になって足掻いたら・・・。 「もう、如何したら良いかわからない」 泣き付いたのは、いつぶりだ・・・?胸のうちに抱え込む事も出来ないほど膨大に膨れ上がったものに。データは未だに答えを出せずに居た。 「一度、距離を置いたらどうだ?」 「きっと、距離を置いたら其処からまた元になんて戻れない。一度手放して、もう一度手を出した事なんて、一度も無い。」 「何か他のものに変えるのは?」 「興味も無いものに、手なんか出せない。」 「我慢して貫き通した・・・」 「そんな事したら、嫌いになる。自分の中から、消し去るほどに・・・」 「我侭だな。手放す事もしたくて、抱え続けてる事もしたくなくて」 「我侭な事は十分知ってる。」 嫌いじゃないのに。それでも自分の中で其れは今も着実に輝きを失っている。 大切だった思いも、原動力も、何処へ落としてしまったのだろう?誰か知ってるなら教えて欲しい。僕の落としモノは何処に在るのか。 一方通行の思い。あの人は僕には振り向きはしない。誰も僕に見向きもしない。僕は、自分を見失って。情緒不安定のまま。生きていかねばならないようだ。 自分の生きてく糧を支えていたものの八割を失って。安定できるわけも無い。なのに、それでも今はある。存在なくなってから、誰かが悲しんでくれるかもしれない。 別に、反応なんて期待せず、今も昔もこれからも飄々と生きていくのだろう。 ただ、何かに執着できるようになって、やっと人らしくなれた僕は。又、人になれなくなってしまうのだろう。 今は目下、少し先にある大会のことだけを見ていれば良い。其の先に何があるのかわからないまま。 崩壊を続けるキャパシティーが完全に崩壊しきったら、再構築したキャパシティーはあの人を又愛してしまうのだろう?それとも、このまま眼をつぶってしまうのだろうか? 何一つわからないまま。だから今は、何もいえない
20030929 今朋 獅治 禁 無断転載 |