色鮮やかに、極彩色のジオラマを見ている気分だった。





I can speak all things.






僕の体の構成物質は、あの人が八割を占めていた。残りの二割はテニスだった。それが当たり前の生活で、構成物質は同時に僕の原動力で、生きる糧でもあったのだ。いつでも其の為に生きてきていた。不意に訪れる死への衝動も、退屈で仕方ない学校をサボタージュしたいと思う事だって、其れを励みに動いてきた。
頑張れば其の分、ささやかにでも還ってくる。嬉しくて、楽しくて、それが誇りだった。
そんな事過去形で言ってみても、其れは結局今も同じ気持ちなのだ。
黒い感情とでもいうべき、僕のキャパシティーを超えて、聞いてても言ってても果てしなく気持ちの良くない感情がとめどなく溢れても、其れは残っていた。
正しくは、黒い感情に押しつぶされていた愛情が、ゴミが捨てられて綺麗になっていた。
どれだけ言い訳してみても、捨てられるどころか、綺麗になってしまった僕のキャパシティーは、ある意味正常に働けるようになった。

「お前は散々迷惑をかけて、結局同じところに戻ってくるんだな。」
「ごめん手塚。それでも、俺は、あの子が愛しいんだ。」
「謝る相手が違うだろう?俺は、何もされていない。意味も判らずお前を見てるだけしかなかったのは、海堂だ。」
「夢にまで見た。捨ててしまえば良いのにと、呪いの言葉を吐いてるときにも。綺麗だった。彼は、何処までも彼なんだ。」





愛しくて愛しくて、涙が溢れるほどに。
余計な物が減った感情の入れ物は、素直に想いを包んでいた。






僕はアノ日からずっと、壊れていく事に、失っていく事に怯えていた。あまりにも怖くて、全てを手放そうとしていた。怯えて怯えて、全て拒絶して、世界に呪いを込めた。

・・・し・・・る・・・・して・・・。・・・してい・・・ん・・・す

不意に聴こえるノイズ。何故?
怖いのに、怖くて仕方ないのに。瞑り続けた眼を、開けようと想った。
怖くて怖くて瞑っていた眼を、微かに開けて見えたモノは、暗闇の中、何処までも澄んで自分を誇示する月だった。
急に、全てを理解した。愛していた人の事も、自分の状況も。
僕は、愛している事を言い訳していた。どうして好きか。
僕は、其れすらデータに頼ろうとしていた。だから、何かの拍子に、強引にデータにしていたものが綻んでしまったのだ。
愛しているのに、理由付けなんて要らない。あの人は、其処に居て、何も変わっていない。
色は、光の反射だ。僕は、自分の光を失っていた。だから、他の色も見えなくなった。
失っていた自分の光は、ぼろぼろの心の、最後まで捨て切れなかった想いの端っこが引っ掛かっていて。周りは急速に色を取り戻していた。



「乾センパイ!?」
遠くから聞こえる愛しい人の声は、僕の感情が、言葉を発せられずに、涙になったから。
「件の彼から御氏名だ。気持ちを整理してぶつかってこい。」
「有難う、手塚。」
駆け出した彼の元。今までの事、全て話して。今までの事、全て話したら、君は、僕を如何見るだろう?
本当に好きなんだって、心から愛してるんだって、伝えたら、君は?
ねぇ、前までよりも、僕を好きになってくれるかな?





愛してる・愛してる。愛しているんです





コノ日から余裕が出たのだろう僕は、他のものにも優しくなった。
唯、好きなだけだった想いを取り巻いていた、鬱陶しいほどの愛してしまった理由達から。



開放された愛しさは、まっすぐ、彼に向かう。

簡単な事に気が付いた。だから、言うんだ。
これが僕の、全てだったんだ。
とても単純なことを、複雑にしていた、僕。

どうなったかは、言わないよ。



全ては、極彩色の日々の中。




















20031209
今朋 獅治

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