知らなければ良かった。



「ずっと一緒に、いたいです。」
それは小さな自分のした、何気ない会話だった。そして、誰にも邪魔させない、願いだった。





「好きだ。樺地。」
たった一言発せられた言葉は、永遠に胸に残った。
この人に、愛されたかった。そして、ずっと傍に居たかった。

元来我儘なのだ、自分は。願いは、欲しい物は、必ず手に入れないときがすまなかった。其れは今も余り変わらないのだ。
時間がかかる事は気にならないから、だから、俺は諦めたフリだけして、ずっと切望しているのだった。
出逢った頃から、虎視眈々と、願い続けてるのだ。

「いけ、樺地!」「うす」
命令に忠実に。「ウス」と肯いているだけで、彼の人はとても上機嫌だ。其れは、幼い頃から変わらない。
ほしいと願ったアノ頃から、ほとんど進展しては居ない。むしろ、進展しすぎたのか日常的な事になった。

いつもと同じ午後。いつもと同じ面子。いつもと違う彼の人。
「好きだ。樺地。」
と、あまりにも哀しい瞳をしたから、「ウス」と。其の時も肯いた。

ずっと一緒に居たいから、感情なんていらない。
ずっと一緒に居たいから、他人なんていらない。

ずっと一緒に居たいけど、彼の人のココロも、見えない。





如何し様も無い想いという物はある。
如何し様も無いから、言葉にしてしまった。

「好きだ。樺地。」

言ってしまえば何と言うことも無い言葉だった。世に溢れてる、とてもつまらない言葉の羅列だった。
それでも、伝えてしまった言葉の羅列は、とてもシンプルで、相手に伝わらない事は有り得ないものだった。
だから撤回をする事も出来ない。言わなければ良かった、と、後悔も出来ない。でも、あいつは。何事も無いように「ウス」と肯いた。
それだけだった。

其れからも、いつもと変わらない日常だった。

嫌われては居ないと想う。あれは、いつだって、自分の望むとおりにきた。
想うより我儘なあれは、自分の意志を曲げる事は、いつだって無かった。
出来るから俺に忠実なのだ。
それでも、言葉を吐き出して変わる日常は無かった。

俺が樺地を欲しがって。
樺地は何を欲しがってる?



理解したくない答えは、本当はずっと昔の何気ない一言にすべてあったことになど、忘れたフリをした。





贔屓目に見ても、主従関係。
「なぁかばちゃん、自分、跡部と如何したいん?」
あの、跡部がかき回される相手。気にならんゆうたら、おかしい。
だからちょっとした、疑問をぶつけてみたら、
「・・・ずっと、一緒に居たいんです。」
そう、返ってきた。
「そのために、全部捨ててまうの?自分は。」
穏やかな顔をした。其の後輩は。ああ、そのために全てを捨てたって構わないんだと悟った。
「自分が捨てた中には、跡部への愛情も、全部入ってたんとちゃうの?」
それでも尚。この後輩は、たった一つの願いの為に、其れを実行しているのだと想う。

「エゴです。」

たった一言。感情すら捨てて、一番、跡部に酷いのは樺地なのだと思った。
傍にいたいから、邪魔な感情を捨てた。
傍にいたいから、って、肝心なものの想いまで消してしまってどうするの?





「忍足?」
凝視してしまったから。泣きそうな顔をしてしまったから。
「何でもない。何にもあらんよ・・・?」
抱きつく事で、ごまかした。
「嘘つくんじゃねえよ・・・」
何やゆうても無碍には出来ひん性格だから、跡部はあやす様に背中を叩く。
「堪忍な?」
更に抱きついた。
「何を?」
俺は、樺地の心を知ってしまったから。
「堪忍・・・」
報われない、恋の話だと知ってしまったから。



「分かってるから・・・お前が、啼くな・・・。」



全てを抱えて、啼けない友人の代わりに、俺は、声にならない嗚咽を漏らした。



何も。何も知らなければ良かったのは、何も俺一人では無かっただろう。










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跡部よりも性質が悪い

そんなある日の、樺地のお話。



20040126
今朋 獅治

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