いびつに生きていくんだ。
対象美なんてくそくらえ。



アシンメトリー



空気が暖かくなってきた。
と、思ったら寒くなったりする。

「南〜さみぃ〜!!!」
「煩い。馬鹿」

今日も今日とて、けんたろーさんは俺に冷たい。

「南はさ、何か、俺にだけ冷たいよね?」
「お前が馬鹿な事しかしないからだろ?」
「え〜そんなことないよ〜?」
「ならば、今すぐその俺のジャージに突っ込んで、直接暖とってやがるその冷たい手を背中から引き抜いてもらえませんかね?」
「え〜?!俺の白魚のようなきれーな手が、さむ死しちゃうよ〜!」
「いっそしてしまえ。」
ぴしゃりと言い放つ部長様に、今日も今日とて構われ倒し。
分かってるから、構ってくれなきゃ俺が死んじゃうの。
本当は、そんなに弱くないのに、でも、強くもないから。南は知ってるんだ。近いところに居たから、もう、俺のこと、余すことなく知ってる気がしてるんだ。

「ウサギさんみたいに俺が死んじゃったら困るでしょう?」
「お前は、いっそ一人なら生きて行けるよ」
よく知ってらっしゃると思った。でも、違う。
「南も居なきゃ、俺、無理だよ」
「そう思ってるだけだ」
恋より先、一線は越えさせてくれない。





二人で歩く帰り道。夕焼けは俺色。
南がだって、夕焼け色が好きだと言った。だから、俺はその色になったのだもの。

不意に訪れる。二人並んでる、それでも、孤独。
超えたい一線が、俺を寂しくさせるよ。
よくわからない不安に押しつぶされそうになった。泣きそうになった。裾を掴んだ。震えていた。
「千石・・・?」

道行く人が俺たちを見ていく。
絡まる指を、凝視して。

悪い事なんか、俺はしてないのに。

どうしよう。南は、この手を払いのけるかもしれない。
そんな事されたら、俺は本当に死んでしまうかもしれない。
唐突に、ぐいっと引かれて、俺の体は南の背中の半分に隠れてしまった。
「手、握ってていいから、お前本当は何か言われんの嫌いだろう?しばらくこうされてろ」
「ごめんなさい・・・」
「ありがとうだろう?」

自転車を片手で押してるんだよ。俺に手を貸すために。
やさしいんだ、やさしいんだ。南の触れた手が、暖かいよ。やさしいのに、ざんこくだ。



「南、キヨって呼んでよ」
「何で」
「けんちゃん、」
「どうした?」
「けんちゃんは、本当に俺にだけやさしんだよね。」
「千石?」
「わかり辛いんだよ」

握った片手を離した。俺色の夕焼けを背負った俺と、俺色の夕焼けを正面に浴びた南と。

「俺が傷つくと思った?俺は傷なんかつかないよ。けんちゃんが俺を捨てられない限り、俺は傷なんかつかないよ?」
だから。
「キヨって呼んでよ」
ねぇ。
「キヨって、呼んで?昔みたいに、そうしないと呼ぶよ?ずっよずっとけんちゃんを呼ぶよ?蹲って、泣き叫んで、けんちゃんだけを呼び続けるよ?」
「やめ」
「やめない」
だって。
「けんちゃんは、俺を守ろうとしすぎて雁字搦めになってるんだ」
「千石…」
泣きそうな顔。
いたいいたい。こころがとても、いたいんだろう。

でも、泣きたいのは俺のほうだ。
「ねぇ、男の隣に女が居て、それできれいな対称なんだろうね?愛してるって、言ったら、ねぇ、けんちゃんは俺を捨てるんでしょ?」





夕焼けに伸びる俺たちの影は、重なったって酷く歪で、まったく美しくなんか無い。

ねぇ、キレイって何ですか?

「けんちゃんが望んだって、俺は型に何かはまれないよ、だって俺は女の子になんかなれやしないんだから・・・」

そのままでいいと望んで欲しい。
歪な愛の形を。





結局、南健太郎は、きっと、無碍にはできないから、その歪な俺を、そっくりくるんでしまうのでしょう。










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南は、無意識下で、非対称の美しさを分かってて受け入れてくれるんです。
彼の中に、同調とかは無く。
無駄に悩むのは、好きのベクトルが不可思議な方向を向いてる清純のお仕事。

というか、もう春なのに、冬のお話。

20040402
橋本 晴

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