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願いは唯一つ
其れは 罪深いことだとしても 君たちに出会えたキセキを いっそ 忘れてしまいたいと思うのは 俺の我侭(エゴ)でしょうか? キキュウ 日常というものほど厄介なものは無い。 いつなんときボロを出すか分かったもんじゃないカラ。 バレテはいけない。 俺を。隠して隠して、果たして何を得るというのか・・・? きっとそんな事ぁ考えちゃいけない。俺は俺の仕事をしなくてはいけない。 そう、ココに居る理由を忘れてはいけない。 ココに居る、理由を・・・ ******************** T 太陽ト月 「何してるの?コート整備終わったんでしょ?帰らないの、海堂君。」 物思いに耽っている俺に声を掛ける。後ろから、知らぬ間に・・・。怖いからやめて下さい・・・マジで。俺、いつかこの人に殺される・・・。っていうか俺のこと嫌いでしょう・・・? 「いえ・・・。まだ帰ってこないんで・・・。」 答えて椅子に座る。 「そう。」 と言いながら俺の向かい側に座る。 「不二先輩は帰らないんすか?」 「うん。タカさんも帰ってこないから。」 そういって静かに微笑んだ。 其れは何時もと変わらない光景。此処に来て二年間。 一人で待つ時間は長い。だけど、俺があの人を待つときは、絶対に誰かが一緒に残ってくれる。鬱陶しくない優しさで。 他愛も無い話をして、時々恋愛について語って(不二先輩か菊丸先輩と残るときは)、 「是は君には教えられないな。」 なんて、途中まで言って教えてくれなかったり。そんな事をしていると、「遅くなってすまん」と言いながらあの人は近づいて来る。 「いえ。不二先輩も一緒だったから。」 今まで闘っていた素振りを微塵も見せないように俺が言う。 でも、やっぱり気になる話の続きにむ〜っとしてあの人に泣きついてみる。 「先輩・・・。不二先輩が俺に教えてくれないっす。」 「ああ・あれはねぇ・・・。仕方ないよ、海堂。」 ?!あんた知ってのかよ?!・・・知らないのは俺だけかよ・・・!! こういう時、年下はなめられるなぁとか思ってしまう。っていうか、この二人が組むと、性質が悪いから嫌だ。 何だかちょっと悲しくなりつつも、折角だからと河村先輩を待つ。 「遅い・・・」 と、俺を構うのにもそろそろ飽きたのか、あの人が悪態をつく。淡々とした調子で言うから、怒ってんだか分かりづらい。 そんなこんなで、もう直ぐ七時に成る頃、ようやく河村先輩が来た。 「ごめん!遅くなっちゃったよ!」 「遅いよ・・・タカさん・・・」 何て嬉しそうな顔で言う不二先輩を、可愛いと思った。羨ましく思った。 皆が揃ってやっと帰る。楽しくてしょうがない日常。 こんな楽しいのは生まれて初めてだったから。 だから出来ないのだ。俺には。研修を終わらせる事など。帰る事など。出来は・・・しない。 このまま忘れてしまいたい。研修の事など。 誰も傷つけることなく、此処に居つづけたい。 どんなに親密になっても嘘を吐き続けなければならない。 其れが俺に課せられた罪と罰なのだから。苦しいのは自分のせいなのだ。 もし皆にばれてしまったら、俺は如何為るのだろう? 冷徹な目を向けられるのだろうか?もう、仲間では・・・恋人では・・・なくなってしまうのだろうか? 心は、死んでしまうのだろうか・・・? 考えたくない。 から、今は目を瞑ってしまおう。俺は此処に来て温かいものを手に入れた。 今だけは寄り添っていよう。 いずれ来る、終焉の刻まで。 「どうしたの?海堂?」 心底心配そうな顔で覗き込んでくる二つの眼に、俺は嘘を重ねた。 「え?何でもないですよ?ただ、走りたいなぁって・・・。」 そうか?ってしぶしぶ納得してくれたあの人の後姿を見つめていたら。 ぽん。と。 河村先輩と不二先輩に頭をはたかれた。表情からは何も読み取れない。只、其の手は暖かかった。 あたたかかったのだ。 涙は見せてはいけない。笑え・・・笑え・・・! 帰る路はとても綺麗だった。何処までも澄んだ空には月が存在を誇示し始めていた。 夕暮れの空に、俺は、笑った。 今日も一日楽しかったと。今日も一日俺は居れたと。今日も一日皆と笑えたと。 |