其れは何気ない、なんとも無い、日常を切り取ったようなものだ。





その永遠を、君と繋ぐ



夏休みに入る前。



「なぁ跡部、夏休み大丈夫?」
「ああん?」
向日が空中をくるくる回りながら聞いてきた。
うぜぇな、何してんだよ保護者(忍足の事)はといらいらした目で探して視線がかみ合った瞬間、暑さに髪を一括りにした忍足が、片手でスマンと謝った。
謝んなくていいからこいつを保護しとけ。きっちり見張れっていうんだ。それなくても暑いんだから。

鋏を持ってにこにこしてる滝と、それに便乗してけらけら笑ってる慈郎と、何か鬼気迫るものがある宍戸に追詰められて後退してる向日の保護者(だから忍足の事)を尻目に、向日の質問の意図を問いただそうとする。

「俺の夏休みが何だ?」
「うん?ああそう、夏休み!」
「だから?」
「お前大丈夫なの?」
「だから何が?」
「樺地。」

何故かは知らない。が、なぜかコートがブリザードに見舞われたようにシンとする。
先ほどまで忍足を追い詰めていた滝や慈郎や宍戸、更には追い詰められていた忍足さえもその行動が固まる。

「はぁ?」

「だってさだってさ!今年俺たち暇だろ?部活もいつもより無いじゃん?樺地に会える日無くね?お前平気なの?」
「何言ってんだ?お前。」
「へ?」

「別にココで会わなくても、樺地は毎日来るから良いんだよ。」



「何を皆して変な顔をしてるんだ?それでなくてもユニークな顔が、より一層ユニークになってるぞ?」

「あ・・・」
「あ?」

「あほじゃねーの?!去年より酷くなってるジャン・・・!」

木霊した向日の絶叫は、何一つ意味を成さない。

去年は全国出場の為、夏合宿してたから俺んちに来る暇なんて無かったじゃねぇか。なぁ?











+++---------+-

ふ。と笑う、と、樺地も微笑む。

「ああ、部活。向日さんの事ですか?」
と返ってきた。

雲はのんびりと泳いでいく。
俺はぽけっとその空を見上げる。

「お前には何も言わなくても伝わるんだな」
驚きと喜びと、複雑に色々こめて吐き出した言葉は、多分きっと、本当は至ってシンプル。
ただ単純に、嬉しかったのかもしれない。



樺地は少し考えるように首をかしげた。
程なくして、ああ、とゆるく笑う。
「其れは、いつだって貴方を解っていたいと、毎日祈った答えです」



雲はのんびりと泳いでいく。
俺はそれには目をくれず、ただひたすらに、その甘美な言葉を受け止めた。





「貴方の背負ったもの、俺が持ってます。だから、今は、ゆっくりと眠っていて良いです。」



雲はのんびりと泳いでいく。
俺の目を、その大きな手で覆って、ゆるく確かに抱き寄せられて、この身は薄い闇に包まれる。

ああそうだ。俺は、ゆっくりと寝たかったのだ。
悪夢に起こされる事も無く。
怯えながら眠る事も無く。
ただ、ゆっくりと、眠りたかった。

何も見えないけれど、目にはその手が置かれ、背中は体温を感じられて、余すとこなくこの身は樺地に包まれていた。









+++---------+-

「なぁ忍足ぃ」
「なぁに?岳人?」

市民プールに行こうとも想ったものの、そんなものより、いっそ自分の学校に行った方がタダやし広いしいいんちゃう?という忍足の案を素直に受け入れて、唯今母校のプールに真っ赤な浮き輪を浮かべてぽっこり座った岳人が言う。

「邪魔しに行かなくてよかったなぁ〜」
此処は学校だよな?何でこいつら浮き輪とか持ってきてんの?とか想うだけの宍戸や、プールサイドのパラソル付の教師の監督席をにこやかに強奪した滝や、イルカのライドオンに跨ったまま夢と現の狭間にいる慈郎も肯く。
「そやね〜」
人一倍やる気無いように忍足も返事する。
「あ〜、じろちゃん。落ちてまうよ〜?」
生温い返事は、やっぱり温い慈郎のクライシスを前にした言葉に消される。



「ねぇ日吉、来年はどうするのかな?跡部さん。まさか夏合宿とかについて来るのかな・・・?」
「既に全国に行く事が前提なんだな、貴様の未来予想図は。」
「え?ダメ?」
「そのつもりだから構わない。付いてくるんじゃないか?あの人の事だ。部長の俺が樺地と話してるのだって許さない気迫で。」
「日吉だって部長になる事前提じゃないか・・・。」
「当たり前だ。」



「あはは、うちの部は平和だね。」

「でも、今頃跡部、樺Gとなにしてんだろぉ・・・」
「おはよう慈郎。危ないから其れに乗ってる間はせめて起きてなよ?あとね、でもが何処に掛かってるのかよくわかんない」
「あぁ〜滝ぃ〜俺起きてたよぉ〜?あとね、深く考えないでぇ〜」
「何度も落ちかけてたのに?」
「それは。えっと、滝のきのせい。」

「じろちゃん。跡部と樺ちゃんなら、きっと、ほら、今頃寝てるよ。」










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「今、跡部さん寝てしまったので。また誘ってください。」
「あーええよええよ。むしろ、跡部起きてた方が怖い。」

邪魔しに行こうとも想ってたけど、樺地の傍で穏やかに眠ってしまった跡部の邪魔はしないでおこうって皆で決めた。



俺たちが負けたとき、何も言わずに色んな人に頭を下げていた跡部の後姿を思い出した。
悔しくて、腹立たしくて、何も言えなくて、目に一杯涙をためた俺に、忍足は無言だった。

誰も何も言わなかった。
誰も何も言えなかった。

その潔い姿に、自分たちの敗北を知った。
跡部はいつだって、俺達の最悪を想定して、俺達の罪を被る覚悟を持っていたんだ。
今まで驚く程の苦労を背負っていた跡部は、其れでもまだ残ってる色んな責任感をその背に乗せて、それでも樺地の傍でだけは穏やかに眠るんだろうと想う。

だからせめて、今は邪魔しないでおいてあげようと決めた。















雲はのんびりと泳いでいく。

この穏やかな時間は、永遠では無いから。
だから少しでも繋げ続けられるよう。



僕たちはいつだって、必死で今を生きているのだ。


















































20040728