煙草に願いを乗せて

煙に希望を散らして

俺に辿り着いたのは



願いが強くなる毎に、少しずつ少しずつ煙草も強くなっていく。

煙草が強くなる毎に、胸の暗闇は深く深くなっていく。

焦る気持ちも、全てを、言葉に出せない彼達は、全てを煙に乗せた。

始めに見つけたのは彼。



暗闇にスクイ。願いはココに流れ着く





其れは晴れやかな日だった。
部誌を書く為に残った部室。もう、練習してるものなど居ないはずの時間。

静かに扉を叩く音。

「誰だ」

そう聞けば、

入っていい?

と、飄々とした声が返ってきた。

「勝手にしろ。」

そう返したら、彼はするりと入ってきて、俺の横の椅子に座った。

まだ部誌は書き終わらない。目線はずっとノートの上。一度も彼の方には目を向けなかった。

「ねぇ手塚、絶対的なものって在るみたいだね。俺は、手に入れたみたいだ。」
ペンを握る手が止まる。初めて彼は目線を向けた。他人事のようにそういってのけた親友に。

「手に入れたのか?お前の其処を救ってくれる奴を。」

そう言って、胸をトンと突く。

「此処に居る」
そういって彼は後ろに居た少年の腕を引いて前へ導いた。
彼の後ろからひょこりと顔を出したのは、まだ触れれば壊れてしまいそうな、今からはおよそ検討も付かないような少年。

「手塚副部長…」
「どうしたの海堂?…ああそうか、こんなまじかで副部長ともあろう奴と話したことなかったもんな。」
「・・・っす。」
少し顔を赤くして俯く少年を彼は自分の膝の上に乗せ、彼は副部長と言われた彼に嫉妬した。
「別に俺は海堂を誑かした覚えは無いぞ。」
小声でそういった彼に
「解ってるよ。でも俺はまだ自信がないからライバルになりそうな奴は早々に牽制しておくんだよ。」
と彼は答えた。

強姦紛いに手に入れた少年を、今ではガラス細工の様に扱う彼。
何処かで負い目に感じているんだろう。其の姿に。
親友と呼べるものをとられた事に少しの嫉妬。

ふぅとため息をついて口を出た言葉は、なんとも陳腐な物だった。

「もう、傷つけるなよ。」

「真摯に聞いとくよ。」

「おめでとう、親友」

そう言って口付けた。

「ありがとう。親友」

そう返して口付ける。
一切驚いた表情はしない彼。

自分の真上で起きてる事に、落ちてしまうんじゃないかと思うほど目を大きく開けて其の成り行きを見る少年。

少年の前でするのはちょっとした悪戯。
また、彼はペンを走らせ始めた。

「さて。報告も終わったし、俺も帰ろうかな。」

彼が少年を膝から降ろして、他に注意が行ったホンの一瞬。

「海堂、臆病者で鈍感なあいつの手を、どうか離さないでやってくれ。お前はお前のままで。」

耳元にそう伝えた。

何も知らないふりをして、ペンを走らす。
「どうかしたの?海堂。」
「・・・んでもないっす。」

そう。何でもない事だから。
でも

どうか、彼の手を離さないでやってくれ。離してしまったら、彼は全てがヤミに堕ちてしまうから。

「じゃあね。手塚。いい加減切り上げて、お前も早く帰れよ。」
意味など無い。唯の報告だから。そう言って帰る其の背中。盗み見たのはホンの一瞬。

また走り出すペンの音。

「ああ。」

そこで扉は閉じられた。

カタンと置いたペンの音がやけに大きく聞こえる。

静かな空間に、ぽたりと落ちた音は、虚空にかき消された。

恋慕に近い思いで親友として彼の隣に居た彼は。
今だけと、
彼の為に覚えた煙草に縋った。











「なーんか手塚ってば元気なくない?」
「手塚はもともと英二みたいに馬鹿みたいに元気ですって顔して生活して無いじゃない。」
「なに?不二俺のことそう思ってんの。」
ぷーっと頬を膨らまして怒る彼に笑いを禁じえない。
「違うよ英二。機嫌直して」
「ビッグマックセット2個」
「Lサイズでデザート付き」
「機嫌直った。」
「そう?善かった。」
「そうじゃないだろう?2人とも・・・」
「あ。河村」
他の人じゃ見ることは出来ないだろう笑顔で彼の登場を歓迎した不二。
その理由を知ってる菊丸はただただココだけは平和だなぁと思っていた。
「手塚の事話してたんじゃないの?」
「そだった!」
「どうでも善いけど、大石もしんどそうだよ?」
「あっ!たーいへん!俺ちょっと大石んトコ行ってくる!」
そう駆け出して行った彼を止める術等無くて。
2人っきりになりたかった不二は、大石を餌に菊丸を退場させた。

「手塚、元気が無い理由なら、僕何となくわかるよ」

唐突に不二はそう言い出した。
「え?」
「あれ。」
そう言って示した先には、乾と海堂が居た。

乾と手塚が、無二の親友だと言うことくらい、此処のレギュラーは知っていたから。

彼は「そっか。」と言う事しか出来なかった。

「寂しいね。」
「うん。寂しいね。僕も君に大切な人が出来たら、今の手塚みたいになるんだろうね…。」
言外に込めた自分自身に対する皮肉に気づくような君じゃないから。
「いつか、手塚のこと救ってるくれる人が現れるよ。誰にも負けない、そんな強い輝きを持った人が。」
そんな優しい事を言えるんだよ。
「そうだと善いね。」

遠くを見つめ無ければならないのは、何も手塚唯一人じゃない。

でも、不二は何故か彼が本当に救われる日は案外近い気がしていた。











「ねぇ手塚、絶対的なものって在るみたいだね。俺は、手に入れたみたいだ。」
他人事のようにそういってのけた親友を、ほんの少し恨めしく思ったのは丁度1年前。



越前 リョーマ。
あの少年を初めて観た時の驚きは表現できない。
ただ、彼の中で光り輝いていた。

眩しくて、直視することも出来ないくらいに。

上を上を目指す少年に、自分というモノを植えつけたいと思った。
少年の目指すものになりたかった。
少年の父親に要らない嫉妬を焼いたのかもしれない。

もっと強く。もっと高みへ。

少年が、自分の光で、一人歩いて欲しかった。
自分以外、他に支えるものなど要らない。

きっと醜い独占欲なのだろう。と彼は思っていた

其の強い瞳に、意思に惹かれていた。食い入るように見つめていた。
気が付かなかった。
そんな目で、彼も見られていたことに。

好きだと言う言葉と共に彼は少年に求められた。
手に入ったのは、誰よりも強い魂。

嬉しかった
涙は止まらなかった。

「越前、お前は青学の柱になれ。」

唯一つ。少年に送った濁り無き言葉。
彼の後を只追うような奴なら惹かれなんかしない。
彼を超えようと其のギラギラした闘志を持つ少年だからこそ。

少年にあって、寂しかった心は何処かに消えていた。
少年を追うことで精一杯の思考。

「最近の手塚は元気だね!」
「英二はいつも元気だけどな。」
「まっね!だって元気に笑ってるほうが俺でしょう!ね?大石!」
「そうだな。」

「手塚、もう完全に大丈夫みたいだね」
「越前君は乾と違って光だから。影なんか吹き飛ばしちゃたんだよ」
「あはは。其れは少し乾に悪くない?」
「そう?ああでも、だんな様の悪口言ったら、奥さんに悪いかな?」
2人でこっそり微笑みあえる幸せ。

少年を手に入れて、彼が彼に囚われていた闇が消えた。



でも、小さな頃の自分も否定したくは無い。

だから、慣らし運転から始める事にした。

いつか是に逃げていた自分が、自分を解放してくれたら。

もう、手を出す事も無くなるから。

救いを導いてくれて感謝を。










***

『煙草』のような全員集合の話か、塚+乾の二人の話(塚リョ、乾海前提)みたいなもの。
塚+乾なら『暗闇にスクイ願いは煙に流れ往く』での現在の話を。
お互いがお互いに、自分のパ−トナ−を見つけられた事に対しての思い、みたいな感じで。
というリクだったのですが、どんなものでしょう・・・?



2002

今朋 獅治

蒼桐 神楽様
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