連鎖反応



気が付けば、俺の下で後輩は涙を流していて。




皆は帰っていた。

俺は今までのことが善くわからない。

なぜ、このノートを持っているのかも、

なぜ、左手が血を流してるのかも、

なぜ、胸がざわつくのかも。





小さな頃、
いつも使うノートとは別にエンジ色のノートを買った。たった一冊だけ。
大切な人の為に使おうと思って大事にしてきた。
未だ見ぬ愛しい人を思って。
いつまで経っても白いノート。なぜ俺はコンナに辛いのだろう?

かちゃりと扉が開いた。

「先輩・・・」

小さな声が聞こえた。



外は雨が降っていた。

濡れた体がなんとも頼りなさそうだった。
「如何したんだ海堂?帰ったんじゃなかったのか?」
震えそうな声を何とかこらえて、いつものように言った。
「心配だったんス・・・。俺のせいで、乾先輩いらいらしたんじゃないかと思ったら・・・だったら、何もしてくれなくっていいっス・・・。俺は一人でも強くなります。」
そんな悲しそうな顔しないで?俺は君が・・・



気が付けば俺の右手は海堂の言葉を一言一句残さずエンジ色のノートに書き写していた。
逆行に潜む狂気に歪む顔を見せなかった。
ああそうか。
俺はこの小さな後輩に好意を持っていたのか。
「・・・そう、俺はお前のせいでいらいらしたんだ・・・」
ぼそっと呟いた俺の言葉に、海堂は酷く傷ついたような顔をした。



「先輩!?」
海堂を押し倒していた。
「ねぇ、海堂・・・。俺はお前が好きだよ?海堂は俺のこと好き?」
「え・・?あっ!やだ!!」
返答なんか待つ気は無いからね。海堂の上に覆いかぶさった俺を、海堂が払い除けられるわけも無く。俺はしたいようにしていた。
小さな胸に下を這わせて、ゆっくりと嘗め回した。小さな突起をいじればびくっと反応する。
細い腕は少し力を入れれば折れてしまいそうだった。
「海堂って細いね?腕も脚も俺が少し力を入れただけですぐに折れそう」
何てにっこり微笑んで言ったら、君ってば
「やだ・・・やめて先輩・・・もうやだ・・・怖いよ・・・」
とぽろぽろ泣くから、俺はぺろりと其の瞳から零れる涙を舐めとった。
「大丈夫。そんなことしないから。」
そういったら少し君は微笑んだ。



儚げな笑顔に俺の欲望は肥大していった。



強引な口付けを交わした
「順番間違えてたね?やっぱり、こういうことはキスからはじめなきゃ。」
そう言って海堂の唇を舐めた。少し厚めの海堂の唇は、少し震えていた。
軽いキスをした。
「え?」
っと口を開いた瞬間に俺は舌を侵入させた。
舌を絡め取って、海堂の口を蹂躙していった。息つく暇も与えず、ただ貪欲に求めていた。
ぴちゃぴちゃと響く卑猥な音が海堂の耳を浸食していく。



すうっと唇を離して、代わりに俺の左の指を舐めさせた。
ぬらぬらとしていく左手。
両手で俺の手を持ちなが、一生懸命舌を這わしていく後輩が可愛かった。
ねぇ、わかってるの?海堂?
お前はこれから俺に犯されるんだよ?
其の左手で掻き回されて、もっと太いものを其の身体に受け入れさせられるんだ。
リアルな想像。それだけで俺はイケソウダだった。



「もういいよ。」
そう言って口から出した指は。ぬらぬらと、とても綺麗だった。

赤い舌が、俺を興奮させていく。



「?!何を?!」
「何って?」
そう言いながら左手を後へと這わせていく。ぞくぞくする其の表情。
十分に解してから俺を宛がう。
恍惚とする俺に対して、悦楽に溺れきれず、快感の波に翻弄される後輩が、酷く憐れだった。



魅かれたのは其の表情。

穢されていない其の白さ。



真っ黒に汚れた俺に近づいて欲しかった。

見てみたかった。

無いものねだりの恋なのだと、俺の下で泣くこの後輩を犯しながら俺はようやく気が付いた。



エンジのノートが雷光に映し出される様は、紅くアカク、滴る血のようだった。





床には紅いアカイ血が付いていた。






何度も其の身に捻じ込まれて。
俺が身体を放した時は、床には血が飛び散っていた。
痛そうな其の身を、抱きしめる腕は、俺には存在しなかった。



涙を流しながら、何処かを見つめる其の瞳には俺は映ってなかった。
壊れてしまったのだろうか?壊して・・・しまったのだろうか?
何かに対する其の微笑みは、何処に注がれているのだろうか?



エンジ色のノートには、今日した事をつらつら書き殴った。
苦しいのは海堂のはずなのに、何で俺の心が苦しがっているのだろう?
身体を手に入れて、俺の胸は、より一層ざわついていった。





愛を告げた其の翌日、海堂が誰かと一緒に誰も居ない部室に向かうのを見た。
元来余り人に懐かない彼が、誰かと一緒に居ることすら珍しい。
気になって其の後をつけてこっそりと窓から覗くと、海堂は誰かは知らない男の下で、忙しく喘いでいた。



その次も、其のまた次の日も、いつも違う男の下に、海堂は居た。



俺のせいなのだろうか?これは、罰なのだろうか?



誰が誘っても海堂は拒んだりしなかった。
俺が誘っても、断ることは無かった。
何度其の身を抱きしめたかわからない。
何度其の身に
アイシテルと囁いたかわからない。





いつしか俺に其の身を発かれる日以外は他の男と寝る君の後をつけて其の行為を見ることが、俺の戒めだった。
何度となく他の男に脚を開く君の顔が。
辛そうだと思ったのは、こうして何度君の行為を見たときだっただろう?





雨の降る日の放課後だった。
其の日の相手との行為が終わるのを俺はずっと待っていた。
何時間と待ち続け、やっと終わった男は、海堂を残し足早に部室を後にしていった。



だから俺は、其の男と入れ違いに中に入っていった。
「何しに戻ってきたんだよ・・・。もう今日は終わったんだろう?」
そう言った彼を後から押し倒した。
「ねぇ、海堂?是から俺の相手もしてよ。」
酷く抑揚の無い声は、君には畏怖の音として響いたかもしれない。
彼の身体は、何の抵抗も無く、微かに震えるだけだった。



呪文のように吐く言葉
「愛してるんだ・・・海堂・・・」
「俺は・・・愛してなんか無い・・・」
いらいらしていた。
自分勝手な俺の思いに。
「俺は・・・愛してなんか無い・・・」
自己暗示のような言葉に、
「いい加減にしないか?」
と言い放ったのは、其れは俺の本心。君への思いも、君の態度も。
コレがきっと、最後の駆け引き。
「何が・・・ですか・・・」
「何処の世界にそんなに泣きそうな顔しながら言った台詞を信じられる奴が居ると思ってるんだ?」
「信じる信じないはあんたの勝手だ。だからって俺にまで其れを強要しないで下さい。
俺に、何かを求めないで下さい。」
「じゃあ、其の涙は何だ?何でそんなに辛そうに涙を流すんだ?」
どうか、其の涙を止めてください。
貪欲に膨らむ俺の心が、都合のいい想像をしてしまう前に。
あきらめさせるチャンスは今だけなのです。

海堂の頬をぽたぽたと流れる涙は、外の雨のように止まることは無かった。
其の涙を拭いてあげることは出来なくて。其の資格も、腕も、俺は何も持っていなかった。

「俺は・・・あんたを暗闇に引き込みたくない・・・!光の当たらない道に何か行って欲しくない・・・!俺なんかを好きになった事で誰かに笑いものにさせたくねぇ・・・!
俺より・・・ずっとずっと似合う女とくっついて・・・いつか俺が好きだった事なんて一瞬の気の迷いだったと思って欲しい・・・!」
ぽろぽろと流れ落ちる涙と一緒に、少しずつ言葉を語る海堂はあまりにも儚かった。
「・・・海堂・・・」
「どんなに望んだってあんたとの証は残せないんだ・・・!」
彼を苦しめているのは俺への思い。嬉しかった。
雁字搦めの心は、解き放たれる時を秒読みしていた。
「海堂・・・もういいよ。もう、いいから、それ以上俺の為に自分を卑下しないで?」
抱きしめた身体を壊してしまわないように。甘美な言葉に酔ったように。 「ねぇ海堂。俺は君がいいんだ。海堂薫が欲しいんだ。証なんか要らないから。唯俺の傍に居て?もう、無理に拒絶しなくていいから。俺の為に傷つけなくていいから・・・。」
そう伝えたのは嘘じゃないから。 「先輩・・・」
「君の気持ちが知りたいんだ」
「だって・・・俺・・・もう、汚れて・・・」
「大丈夫。今までの事は俺のせいでしょう?だから俺は責めたりしない。責められる訳が無い。寧ろ、責められるべきは俺でしょう?
もし、海堂の傷つくような事を言う奴が居たら、辛かったら、言って?いつでも・どんな時でも、俺はどんな手を使っても君を救い出すから。ね?」
「せん・・・ぱい・・・」



其の強い意志を宿らせる瞳から、ぽろぽろと止め処無く溢れてくる涙も愛しいと想った。
まっすぐに俺だけに響く声。



「・・・俺を奪い取るなら・・・俺の全てを貴方の全てで奪って下さい。」

「わかってる。もう、一人じゃない。」





例えば其れが、強引に身体から奪った恋だとしても



心が追い着いて来てなかったとしても



無意識に俺を求めてくれるのなら



其れでも善かったのかもしれない。



でも、君は心を俺にくれたから。





だから俺は・・・





手に入れた心と身体を、もう放しはしない。



エンジ色のノートは、優しい狂気を宿していた。










始めは気になって見ていただけだった。



次に声を掛けた。



練習に付き合うようになった。



胸がざわついていった。



煙草の数は増えていった。



気が付けば、俺の下で後輩は涙を流していて。



床には紅いアカイ血が付いていた。





心に紅いアカイ血が滲んだ。



全ては君への



連鎖反応だった。



全ては始まりの





連鎖反応だった。










++++++++++ + ++++++++++

犯罪ではないのでしょうか・・・?

愛しすぎて破滅しそうな乾さんを、更に破滅しそうな勢いで抑える海堂君。
似たもの同士は、お互いを壊さないように、お互いがストッパーになってるみたいです。

やっと終わってひと安心。
コレでさくさく他の話が書ける(安堵)



20020821
今朋 獅治

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