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辛辣な態度で、それでもぐだぐだに俺を甘やかすあいつのその心が、 今更になって理解できないと思った。 別れの歌 俺と樺地の心の間に、確実な境界線を感じたのは、まもなく秋の気配が訪れる、引退というものを間近に控えたころだった。 「おい、樺地」 「うす?」 「お前何か俺に隠し事してたりとか、嘘ついてたりだとかして無いか?」 「いいえ?」 何を言っているのですか?と、そう樺地の目が言った。 「いや、何となく、そう思っただけだ」 「貴方に隠し事をして、嘘をついて、其れで貴方が哀しむのを知ってるのに、どうして俺がそんな事をするのですか?」 当たり前の事を言うように、とても自然に話す樺地に、確かにどこら辺に嘘があるのか分からなかった。 なのに如何して、 「樺地、」 「うす」 「お前が遠いな」 さみしいほどの境界線を、お前と俺の間に感じてしまうのだろうか? そして、如何してお前は、そんな寂しい目をしているのだろうか? 「幼稚舎の頃から、俺は貴方についてきました。それは、俺の意思です。それでは満足しませんか?」 「わからない。満足すべき何だろうけどな」 昔、幼稚舎を卒業するまでは、世界の中心には俺と樺地がいて、その周りに他人が居るんだと思っていた。 実はそれは今でも想っている。 そして中等部にあがり、世界がより一層広がったその時、ああ、俺達はなんと狭い世界で呼吸をしていたのかと思った。 世界は、俺達だけではどうにもならないのだと思い知ったのだ。 そんな事は当の昔に知っていたはずなのに、樺地と校舎が離れて、不意にその事実に気がついた。 ならば、樺地の来るまでの一年間の間に、あいつがこの広い世界に不安を覚えないように、俺はこの世界を知ろうと思ったのだ。 「なぁ樺地、お前は、俺が引退して、そして卒業して、悲しくないのか?」 移ろい行く季節。 に、変わってしまう学年と校舎。 「とても寂しいですが、大丈夫です、また、同じです」 「何が・・・?」 「はい?」 「何が同じなんだ?」 答えは帰ってくることも無く。樺地はとても、悲しそうに笑った。 けいごくんは、俺のこと、いらない? そんなわけがない、お前は、俺にとって、最良のパートナーだ でも、けいごくんのせかいは、とても広くて、俺はわからない いつだって、俺がお前の手をひいてやるから、いつだって、安心してろ 握った手。
いつだ? これはいつの記憶だ? おい、樺地! あとべ・・・さん、おひさしぶりです。 樺地、久しぶりだな!元気でやってたみたいじゃねぇか! はい。 離れていた手を繋いだ手。
いつだ? それでは、この手は、いつ離れてしまった? 其れはいつだったのだ? 俺の手は、いつ、樺地崇弘の手を放してしまったのだ? 「なぁ 樺地」 「うす」 「お前と俺は、どこで離れた?」 「わかりません」 「お前、俺に何を隠してる?お前、俺に、何を黙ってる?言え。全て言え。一つ残らずお前の考えてた事全てを言え」 静かに、確実なる命令。 「言いません。言いたくありません。」 目を伏せて、確固たる信念。 「お前は今、俺に隠し事をしていた事を認めたんだ。言えよ。俺は其れを言えと言ってるんだ!」 何処で、どこで俺は樺地との距離をとった? 「貴方が・・・」 「俺が?」 「其れを、知る 必要は在りません。」 「其れを決めるのは俺だ!」 「いいえ。其れを決めるのは、俺です。貴方が、余計なものに苦しむ事は在りません」 「お前に関わる事、俺が関わる事、其れが余計だと想っているのなら、それこそ其れが余計なお世話だ!」 「もう、」 「もう、二度と・・・だから、俺は、何も言いません。」 苦しそうな樺地の顔。 お前にその表情をさせられるのは、この世に唯、俺一人だというのに・・・ 「なぁ、樺地・・・お前、俺に本当は如何して欲しかったんだよ・・・」 「・・・」 「なぁ、樺地・・・お前にとって、俺の心は、要らないものか?」 「・・・」 「なぁ、樺地・・・お前にはもう、俺の思いは必要ないものか?」 「・・・」 「お前の願いも、想いも、俺にはみえねぇよ・・・この手は、握るだけしか出来ないんだよ・・・もう、俺達の全てを繋いじゃくれないんだ・・・お前の考えなんて、何も伝わってこねぇ・・・」 指を絡ませながら悲痛な顔をする自分が、酷く卑怯だと思った。 苦しそうに、困った顔をしながら、いいえと否定する樺地が、果たして何に否定をしているのかも分からない。 「いいえ・・・いいえ・・・跡部さん・・・貴方はそんな悲しい事、何も考えなくっていいんです。貴方はけして、俺に振り返らなくてもいいのです。」 なぁ樺地、お前はなぜ、そんな悲しい事を言うのだろう。 なぁ樺地、お前はなぜ、俺を守る様な時は、そんなに苦しそうな表情なんだろう? 俺のことが心底大事だというその態度で、どうしてそんなにも、苦しい顔をするというのか? +--back next--+ 20041215 |